世界の記述

2017年10月2日

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水谷竹秀 (みずたに・たけひで)

ノンフィクションライター

1975年三重県桑名市生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業、カメラマンや新聞記者を経てフリーに。2011年『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』(集英社)で開高健ノンフィクション賞受賞。近著に『脱出老人』(小学館)。

 スマートフォンを使った米配車サービス大手のウーバーは8月半ば、命令に違反したとしてフィリピン運輸当局から1カ月の営業停止処分を受けた。ネット上では利用客による反発の声が相次ぐなどの波紋を広げたが、罰金1億9000万ペソ(約4億円)を支払うことで処分が解除され、2週間後に営業を再開した。

 発端は運輸当局が7月半ば、登録車両の増加を受けて新規登録車をこれ以上増やさないようウーバーに命じたことに始まる。しかし、ウーバーはこれに従わずに増やし続けたため、今回の処分に至ったという。騒動の背景には、ウーバーの台頭により、収益減となったタクシー業界からの反発があるとみられる。

 フィリピンでは、「目的地まで遠い」「その道は渋滞している」「食事の時間だから」などの理由で乗車を拒否するタクシー運転手が多く、特にマニラ首都圏では、運転手のマナーが悪評を買っている。おつりが支払われないことも頻繁にあり、外国人観光客を狙ったぼったくりや、一昔前までは料金メーターの改造による過剰請求も報告されていた。

 ところが3年ほど前に登場したウーバーは、タクシーに比べて料金はやや高めだが、快適に目的地まで行けるため、富裕層を中心に利用客が広がった。この結果、タクシー業界団体は「営業妨害に当たる」として、新規車両登録の一時差し止めを求めて裁判所に提訴していた。現在、ウーバーの登録車両は6万台を超えると推計されている。

(iStock.com/LDProd)

 ウーバーの運転手を務めるフィリピン人男性(40代)は「兄はタクシー運転手だが、ウーバー人気の影響で収入が減ったとこぼしていた。タクシー会社を運営する政治家もいるため、営業停止騒動には利権争いが関係しているのではないか」と説明した。

 ウーバーの営業停止を求めてこれまで音頭を取ってきたフィリピン全国タクシー協会の会長は、タクシー会社を運営する一方、市議も兼任している。この騒動をめぐって開かれた上院の聴聞会では、運転手のマナーについて「現行の料金メーターは渋滞の際に運転手に不利なシステムになっている。だから乗車拒否をするのはやむを得ない」などと反論していた。

 ウーバーをよく利用するという別のフィリピン人男性(60代)は「今回の騒動を機に、一部のタクシー運転手はマナーが改善されたように思う。利用客のニーズにようやく気付いたのだろう」と述べた。

 タクシー運転手全体のマナーが改善され、利便性が追求されない限り、ウーバー利用客は増え続けるだろう。それが新たな軋轢(あつれき)を生み出し、再び営業停止に追い込まれては「金で解決」といったいたちごっこが繰り広げられる可能性がある。

  
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◆Wedge2017年10月号より

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