海野素央の Love Trumps Hate

2017年9月23日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「トランプ国連初演説を読み解く」です。ドナルド・トランプ米大統領は19日、就任後初めて国連総会で一般討論演説を行い、強い口調で核・ミサイル開発を進める北朝鮮を非難しました。トランプ大統領の演説で視聴者が記憶に残った言葉は、北朝鮮に対する「完全破壊」及び「ロケットマン」でしょう。本稿では、この2つの言葉を読み解き、そのうえで現地ヒアリング調査に基づいて北朝鮮問題に対するトランプ支持者の動向について述べます。

国連で演説するトランプ大統領(Drew Angerer/GettyImages)

言葉の抑止力に依存するトランプ

 トランプ大統領は動作を交えながら「金(キム)体制が米国を脅迫し、今後も東アジアを不安定にするならば、自国と同盟国を防衛する準備がある」と述べた後、「北朝鮮を完全に破壊する以外選択肢はない」とこれまでで最も強い警告を発しました。自身のツイッターにも同様のメッセージを投稿しています。

 トランプ大統領は、「テーブルの上に全ての(交渉の)選択肢がある」と主張しているのですが、どの選択肢も効果性に欠けるないしリスクが高く、いい選択肢を見つけることができないのです。そこで、同大統領は「炎と激怒」や「完全破壊」など相手を威嚇する言葉による抑止力に依存せざるを得ないのです。

 ワシントンでは、トランプ大統領の過激な言葉が北朝鮮の行動に対して抑止になっているという評価があります。その一方で、下院外交委員会に所属するジェリー・コノリー議員(民主党・バージニア州第11選挙区)のように、同大統領の脅しを伴った発言は北朝鮮の核・ミサイル開発を止めることができないという見方も存在し、見解が分かれています。

 いずれにしても、仮にトランプ大統領が「完全破壊」の選択肢を選んだ場合、米ABC ニュースで国家安全保障問題を担当しているマーサ・ラダッツ記者は「北朝鮮の完全破壊は、1000万人のソウル市民と在韓米軍の犠牲と同等である」と指摘しています。もちろん、北朝鮮の「完全破壊」は日本本土にも波及します。

「ロケットマン」のリスク

 トランプ大統領は演説の中で、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と揶揄しました。「ロケットマン」は、1972年に発表されたエルトン・ジョン氏のヒット曲です。

 この歌詞と金委員長及び北朝鮮情勢がピッタリ重なり合うのです。例えば、”burning out his fuse up here alone” という歌詞は、金委員長が孤立し、北朝鮮が原油禁輸によって石油が枯渇し、ICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射できなくなる状態と解釈できます。

 さらに、”Mars ain’t the kind of place to raise your kids. In fact it’s cold as Hell” は、「北朝鮮は子供の教育に適切な国ではない。人権や自由がないんだ」と言い換えることができます。「ロケットマン」を聴いていたトランプ大統領の世代は、同大統領のメッセージが理解できたかもしれません。

 2016年米大統領選挙の期間中、トランプ大統領は対立候補であったヒラリー・クリントン元国務長官を「いかさまヒラリー」、マルコ・ルビオ上院議員(共和党・フロリダ州)を「ちびマルコ」、テッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州)を「うそつきテッド」などとニックネームをつけて、攻撃を加えて勝利を収めました。北朝鮮の核・ミサイル開発問題に関しても、同大統領は選挙の感覚で相手を見下して屈辱を与えたのです。

 この言動は、かなり危険であると言わざるをえません。特に、北朝鮮が核・ミサイル開発の完成に近づいている段階においては、言葉の選択にかなりの注意を払うことが不可欠です。「ロケットマン」は逆効果になるでしょう。

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