中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年10月28日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 10月23日に終了したG20財務相・中央銀行総裁会議は、通貨安競争の回避を明記する共同声明を発表した。しかし、共同声明は、主要国の立場が異なる中で国際協調が難しいことを今一度示すものとなった。なぜ通貨安競争回避が難しいのか、そして回避にはどのような方策が必要なのかを改めて考えてみたい。

共同声明は通貨安競争回避の困難さを示した

 今回のG20財務相・中央銀行総裁会議の共同声明では、「通貨の競争的な切り下げを回避する」として「先進国は為替レートの過度な変動や無秩序な動きを監視する」とした。そして、「過度の不均衡を削減し、経常収支を持続可能な水準で維持するためあらゆる政策を追求する」としている。

 共同声明に通貨安競争の回避が明記されたことは、いうまでもなく世界経済の大きな懸念材料となってきたことを示している。1930年代の大恐慌時に、通貨切り下げ競争が世界経済の減速を加速させ、不毛であった経験も意識されていよう。

 それにしては、今回の会議では具体的な方策は示されなかった。それは、通貨安競争への懸念が保護主義ほど各国に共有しやすくないことにある。保護主義が広がれば、世界経済が悪化しては先進国にとってマイナスだし、新興国にも悪影響が大きい。したがって、保護主義回避の国際協調はしやすいと言える。しかし、通貨安競争では、どの通貨が低いのか高いのかひとつとっても、客観的に見極めにくい。

 たとえば、人民元だ。今回の通貨安競争で、米国を中心としたG7諸国が割安通貨として念頭に置いているのは中国の人民元とされている。しかし、リーマン・ショック直前と比べてドルに対して人民元は切り上がっており、減価しているのはむしろ韓国ウォンやユーロなどの通貨だ。

“通貨安”は客観基準が不明確

 では、なぜ人民元が割安と批判されるのか。それは、米国が中国との貿易で経常赤字が均衡する為替水準を前提にしてからだ。この前提では、人民元はなお20%から40%ほどドルに対して割安とされる。

 しかし、途上国が先進国に対して貿易黒字を出して成長するのは当たり前で、それがおかしいとされれば、世界中の途上国は成長がむずかしくなってしまう。しかも、中国側は「要求に応じて人民元を切り上げれば、輸出企業の多くは破綻する」(温家宝首相)として、雇用の受け皿が減って社会不安が起きると反論しているが、たしかに通貨切り上げが性急過ぎると産業調整が追いつかなくなる。

 リーマン・ショック時点からの通貨高・通貨安は基準にならない、一定の基準為替相場を計算で割り出すやり方にも問題があるとなれば、通貨が安いか高いかの基準はますます不透明になる。これは、ドルとユーロについてもいえる。

 足元でドルやユーロが安くなっているのは、バブルが崩壊して経済状況が厳しくなったことが背景にある。ドルやユーロは表面的には為替操作されていないし、相場は管理されてもいない。したがって、一応ドル安とユーロ安は是認される動きのように見える。

 しかし、米国は金融緩和を通じてドル安政策を採っていると見ることができる。オバマ大統領は、今年1月の一般教書演説で、今後5年間で輸出を倍増させ、200万人の雇用を創出する「国家輸出戦略(The National Export Initiative=NEI)」を打ち出している。

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