WEDGE REPORT

2010年12月21日

»著者プロフィール
著者
閉じる

谷内正太郎 (やち・しょうたろう)

1944年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科修士。2005年1月から3年間、外務事務次官。現在は早稲田大学日米研究機構教授などを務める。

TPP交渉への参加表明を受け、農業問題ばかりに焦点が当たっている。
TPP参加の意義は経済面だけでなく、安全保障にも及ぶことも見逃せない。
中国が急速に軍事力を高めようとしている中、日本の平和と安定には、
アジア主義ではなく、太平洋同盟網の維持をおいて他にない。
縮み志向に陥る日本。飛び乗るべきバスは、1つしかない。

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加盟を巡る論議が本格化してきた。TPPは、2006年にニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、チリの間で発効した自由貿易協定である。物品貿易について、全ての品目について、原則として即時または10年以内の段階的関税撤廃を定めている。

 また、そのほかにも、サービス貿易や、政府調達、競争政策、知的財産権、人の移動を含む包括的な協定である。当初は、自由貿易を標榜する小国の集まりであったが、10年に入って、米国、豪州、ペルー、ベトナム、マレーシアを加えた9カ国で、更に発展した21世紀型の自由貿易協定を目指すこととなり、TPPは、今世紀のアジア太平洋経済を牽引する枠組みとなる可能性が出てきた。

 TPPを巡っては、市場開放による成長効果とか、衰退した日本農業への影響とか、経済面に焦点を当てた解説が多いが、その戦略的意義を見落としてはならない。それは、日本が、アジア太平洋という広い枠組みで21世紀を捉えるのか、或いは、東アジアという狭い枠組みで21世紀を捉えるのかという死活的な選択と不可分の問題である。

 経済のみならず、政治、軍事まで含めて包括的に眺めれば、アジア太平洋地域という一枚の戦略的絵図があるのみであり、東アジアというのはその半頁に過ぎないことは自明である。

アジア太平洋地域の経済・安保絵図

 まず、経済的に眺めると、太平洋の東側に、米国を中心として、カナダ、メキシコが連結した北米・中米市場があり、太平洋の西側に、日本、中国という横綱を筆頭に、北からロシア、韓国、台湾、東南アジア諸国連合(ASEAN)、豪州、ニュージーランド、更にその西側にインドが結びついた東アジア経済圏がある。現在、東アジア経済圏は、名目GDPで、米国経済に迫りつつある。特に、巨竜・中国の勢いは圧倒的であり、やがて、これに巨象・インドが続くであろう。日本の貿易パートナーとしても、中国が1位を占め、米国は2位に転落した。表面的な数字だけを見れば、東アジア経済圏が、北米経済圏から独立した一大経済圏として自立しつつあるという幻想を抱くかもしれない。

 しかし、東アジアの戦略的実態は、そのような幻想とは、かけ離れたものである。そもそも、経済だけを取ってみても、日本を始めとする多くの国が、中国などの低賃金国に資金や部品を送り込み、完成品を米国市場に送り込んで巨額の利潤を上げている。また、中国がいくら巨大経済であると言っても、現時点では未だ日本と同規模であり、米国市場や欧州市場の3分の1の規模に過ぎない。中国の抱える貧富の格差や老齢化などの社会問題を考えれば、中国の成長も無限ではない。どこかでピークアウトするであろう。

 インドや、ブラジルや、ロシアに至っては、豪州や韓国より少し大きい程度の経済規模しかない。ASEANにしても、全体で韓国と同じ程度であり、台湾の3倍程度の経済規模しかない。経済の玄人ならば、東アジア経済が、巨大な北米市場と切り離されて、今と同じように繁栄できると考える人はいないであろう。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る