ヒットメーカーの舞台裏

2011年1月25日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 商品名の通りセロファンテープの切り口にギザギザを残さず、真っすぐ切ることができる。2010年1月にテープの量が多い「大巻用」、7月にはコンパクトな「小巻用」を発売した。価格は大巻用で2310円と普及品の3倍近くするものの、当初計画していた3年目の売上目標を初年度に達成する売れ行きとなった。ユーザーのこだわりに着目したテープ専門メーカーならではのヒット商品だ。

ニチバン テープカッター『直線美』  実は同社の商標名である「セロテープ」の発売60周年を迎えるにあたっての開発着手だった。

 製品の企画は06年末にスタートした。同社の商標名でありながら、あたかも一般名詞のように浸透している「セロテープ」が08年に発売60周年を迎えるのをにらんでの着手だった。オフィスや店舗などに常備されているセロファンテープのカッターは通常、ノコギリ状の刃で切断するようになっている。

 切り口には刃の形が残って、ギザギザになる。貼った後でこのギザギザの所にホコリが付着したり、貼ったテープを剥がそうとすると縦に裂けたりすることもある。そうした現象や見た目の悪さを気にするユーザーは結構多いのだという。

30年前のリベンジに向けて

 同社のユーザー調査では、4割近い人がギザギザを気にし、カッターで切断した後に、ハサミやカッターナイフで切り直しているということが分かった。また、こうした課題は古くから認識されていたようで、ニチバンでも30年ほど前に直線に切れるものを試作したことがあったそうだ。

 しかし、当時の試作品は刃を手作業で立てる「工芸品」のようなものであり、量産化は断念したのだった。今回は販売できるコストでの量産を目指す再挑戦となった。しかし、そのような刃をつくるのは容易ではなく、着手から1年余りが経過しても、開発は難航していた。

 そうした折の08年春に、この製品の主担当に起用されたのが、研究開発部の金重麻美(29歳)だった。まだ入社3年目。思いもしなかった大役がまさに一直線で回ってきた。重責だったが、「30年前のリベンジ」に向けて、ファイトを燃やした。

 金重は温故知新の精神で、30年前の試作品の刃をつぶさに観察した。金属を切断したり、鋳物に加工したりすると、バリと呼ばれる余分な金属が残ることがある。製品には不要な部分であり、刃のように鋭くなることもあるため、バリは研磨して除去される。

 試作品の刃は、ちょうど切断加工時のバリのようなつくりだった。切れ味を損なわずに、かつ指で触れてもケガをすることのないよう適度なレベルまで研磨されていた。社内資料によると、手作業でバリ状の刃を立てていたことが分かった。

 金重は、今回開発を進めていた刃をベースにしながら、刃先をバリ状に加工する方法に的を絞った。もちろん、量産化のためには機械加工で最適のバリを立てなければならず、生産委託先との試行錯誤が始まった。素材は2種類を用意し、さまざまな加工で形状の異なるバリを約30種類つくりだし、切れ味や安全性をチェックした。

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