チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年1月26日

»著者プロフィール
著者
閉じる

有本 香 (ありもと・かおり)

ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

 「胡錦濤国家主席の訪米ショー」が幕を閉じた。これを日本のマスメディアはそろって、「米中の経済的な連携がさらに進む一方、人権や知的財産権等の問題で価値観の違いは露わになった」と報道した。そして、これまでと同様、この訪米が「米中二強時代の到来」を予感させる、というような論評ばかりが目立った。

 トップ外交などというものはおしなべて「ショー」に過ぎないが、それにしても、今回の胡主席訪米ほど、アナクロなクサイ芝居を見る機会も滅多にない。「大なること」を好むにかけては、いずれ劣らぬ米中両国民でさえ鼻白んだ、今回の「ビッグ」な演出に、もっとも感激したのはひょっとすると日本のマスメディアだったかもしれない。

 このショーで、役者としての力量がやや不足していたように見えたのは、道中時折、「蝋人形のよう(米識者)」な表情を見せることの多かった胡主席であろうか。「米国産品を買ってくれてありがとう」と満面笑顔を見せる一方、人権問題への懸念を一見厳しく迫ってみせるオバマ大統領の役者ぶりはいつものとおりだし、阿吽の呼吸で、「アメリカの良心、我代表せり」とばかりに、悪役中国を批判するアツい演説をぶち、歓迎晩さん会を欠席した連邦議員らの役者ぶりもなかなかのものである。

 ただし、この一連のショーにまるで見どころがなかったわけではない。そのいくつかをつまみ上げ、少々意地の悪い論評などしてみたい。

「ショー」の仕掛け人は誰か?

 まずの見どころは、ショーの仕掛け人であった、中国側の対米外交担当者らの必死さが垣間見えたことである。自国のトップの、担当国への国賓としての訪問実現が、外交官にとっての功績となるのは、なにも中国に限ったことではない。当然のこと、中国側の対米担当者らは胡の主席就任後ずっと、主席の国賓としての訪米に向け動いてきた。

 思い起こされるのは、2006年、ブッシュ政権当時に、日本の小泉首相が国賓として訪米し、プレスリーの館で妙なパフォーマンスを披露したときのことだ。日本のマスメディアはこれを、「ブッシュのポチの卒業旅行」と批判ばかりしたが、今思えば、なかなかどうして、この訪米ショーはまんざら悪いだけでもなかった。

 小泉時代のあからさまな対米追随路線は、日本にとってマイナスだった面も多く、全面的に評価はできない。しかし、当時も、数年にわたって「主席国賓訪米」への激しい売り込み攻勢をかけていた中国勢を退けて、日本が、「米国の国賓=日本こそが米国にとってのアジアの最重要国」なる役を射止めたのは、中国へのけん制という意味では悪くない演出だったといえそうだ。

 おまけに、今でも米国市民のなかには、ちょっとお調子者っぽいけどエルビス好き(つまりアメリカ好き)の元総理に、悪くない印象をもつ人が少なくない。

 小泉・ブッシュ時代に苦杯をなめた体験もあり、昨今の微妙な米中関係のなかで、中国の対米外交関係者らは、なんとしても主席の国賓訪米を実現せねば、との思いを強くしていた。胡主席サイドも、政権末期のレームダック化を食い止める演出の一つとしようと、この訪米への思い一際であったと見られる。

 関係者すべてのそうした「訪米実現」への強い思いの表れ、別のいい方をすれば、中国側の譲歩の表れが、今回の中国側の巨額の米国産品ショッピングであり、記者からの質問に即興で答えるのが通例の、オバマ大統領との共同記者会見の実現であった。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る