イノベーションの風を読む

2018年3月13日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

 ものづくり企業(メーカー)が製品を開発して商品化するまでのプロセスには、それぞれ「魔の川」「死の谷」と呼ばれる二つの難関がある。

 魔の川は、基礎的な検討や製品のプランニングを経て開発を始めるところに横たわり、死の谷は、開発を終えて、生産を見据えて大きな投資が必要になるエンジニアリングのフェーズに進む行く手を阻む。

 業績悪化を経験してリストラや効率化を推し進めてきた日本のメーカーは、革新的な製品、言い換えれば、まだ市場の見えないリスキーな製品の開発には慎重になっている。そして、水勢を増し魔の川を渡ろうと挑戦するものも少なくなったようだ。かつてのホンダやソニーのエンジニア達が持っていたはずの、イノベーションを起こそうという気概は日本のメーカーから失われてしまった。

 

 その点、ものづくりのベンチャー(ハードウェアスタートアップ)には魔の川は存在しない。かき集めた少額の資金と、自分と数人の仲間の手弁当で、誰の承認を仰ぐ必要もなく野心的なアイデアの製品開発を始めることができる。

 2014年に、インターネットにつながったサーモスタットと火災報知器のネストというスタートアップが、32億ドルという高額でグーグルに買収されたことが大きな話題になった。そして、その年の7月にゴープロが株式上場を果たすと、ベンチャーキャピタルだけでなく、エンジェルと呼ばれる個人大口投資家もハードウェアスタートアップに注目し始め、それまでウェブサービスが中心だったシリコンバレーのスタートアップのブームが、ハードウェアの分野にも広がり始めた。

 3Dプリンターによる新しい試作プロセスの出現や、中国の深センなどの電子機器の受託生産サービス(EMS)が、起業まもないスタートアップでも利用できるようになったこともそれを後押しした。そして、その動きが日本にも広がってきた。

 しかし、死の谷はハードウェアスタートアップにも、より深く立ちはだかる。エンジニアリングには、それまでの開発フェーズとは桁違いの資金が必要になる。評価試験をする試作品をつくるための、部品の成形や金属加工などを請け負ってくれる試作会社を見つけることも、スタートアップにとっては容易なことではない。

死の谷を越えるベンチャーの手助けをする

 そのような、死の谷を超えてエンジニアリングのフェーズに進もうとするハードウェアスタートアップを支援する、Makers Boot Campというプログラムがある。京都に本社を構えるベンチャーキャピタル、ダルマテックラボ(Darma Tech Labs Inc.)が、Makers Boot Campを運営しており、「コンサルティングサポート」と「試作ファンド」の二つのサービスを提供する。

 コンサルティングサポートは、スタートアップのプロジェクトの評価や技術面の整理などのプロジェクトマネージメントを行い、50社を超える試作企業が参加する「京都試作ネット」から最適なパートナーを選択してスタートアップに紹介する。ダルマテックラボに所属する大手メーカー出身のエンジニアのサポートは、エンジニアリングの経験のないスタートアップにとって貴重なものだろう。

 Makers Boot Campは、毎年10件から15件の国内外の有望なスタートアップに対して、1000万円から1億円の範囲の試作品作成費用を提供する。デモ用の試作品を開発済みの、死の谷に差し掛かったハードウェアスタートアップを対象とするユニークな投資ファンドだが、さらに初期の段階のハードウェアスタートアップと投資家を結びつけるイベントも定期的に開催している。

 エンジニアリングのフェーズから、どのように生産へ移行するかについてもサポートしていく予定で、国内外の工場との連携を検討しているとのことだ。Makers Boot Campは、海外のハードウェアスタートアップ支援機関とも連携して、世界のハードウェアスタートアップを支援し、京都を“ものづくりベンチャー”の都にすることを目指している。

京都試作ネットに参加するヒルトップはアルミの切削加工を得意とするが、社外とコラボレーションしてアイデアや知識・技術を共有するクリエイティブ・スペースを用意している
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