チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年2月2日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 旧暦に従って年を越す中国の春節(旧正月)は、日本人の頭から正月気分がすっかり消え去ったころにやってくる。今年は2月3日が正月である。

 中国人にとって1年で最も重要なイベントである春節は、毎年、その前後の10日ほどが機能停止に陥ってしまう。この中国の習慣がまだ日本で認知されていなかったころには、中国で仕事をするビジネスマンたちはみな日本との連絡で釈明に追われて大変だった。

 この時期には毎年、中国社会の“いま”を反映したさまざまな話題や、相変わらずの出来事が街をにぎわすのも一つの特徴だ。

 例えば、この時期決まって新聞の社会面をにぎわすようになるのは、密造酒やコピー商品の大量摘発ニュースだ。これは中国にとって春節が、アメリカのクリスマス商戦にも匹敵する一大消費期間であることにも関係している。表も裏も、この時期を逃してなるものかと殺到するのだ。

命がけの密造酒の製造・販売

 まず春節1週間前くらいから仕事もほとんど手に付かなくなった人々が毎晩宴会を繰り返すため酒は売れに売れる。そして正月くらい高級酒が飲みたいという需要も強くなるのだが、普段見慣れていない高級酒に対して相場観の乏しい者たちは「同じ物なら安い方がいい」と手を出すのが密造酒だ。この結果、運の悪い者は命を落とすことになる。春節明けに、これまた大規模密造酒の製造・販売グループが摘発され、多くの者が死刑になるというのも恒例の行事だ。

 これとまったく同じ経過をたどるのが花火だ。春節前には、まず「密造花火を都市に持ち込もうとしていた犯罪グループが摘発された」というニュースが各地で花盛りとなる。にもかかわらず春節明けには毎年、こうした密造花火で「失明した」、「指が吹き飛んだ」というニュースが新聞をにぎわす。火事の報道も多い。

帰省ラッシュで大人用オムツが売れるワケ

 さらに大きな話題は出稼ぎ労働者の帰省ラッシュのニュースだ。帰省ラッシュといっても日本で「新幹線の乗車率が100%を超えた」というレベルのものではない。1月24日付『新京報』には、〈11時間並んでも寝台車の切符が手に入らなかった〉という女性の話が載っているが、彼女が並んだのは駅構内ではなく露天。夜中にはマイナス20度にもなる寒空の下での11時間で、やっと手に入ったのが「硬座」という厳しさだ。硬座はまさに直角のシートだが、問題はそのことではない。列車はたいてい網棚まで人がぎっしり詰まった状態で目的地に着くまで身動きが取れないからだ。筆者自身もこうした列車で約18時間移動した経験があるが、実際、人をかき分けても移動できるすき間などない状態で、トイレに行こうにも発車の段階で数名がトイレを占拠し内カギをかけてしまうのでトイレも使えない。このため2005年から数年間、春節期に最も売れた商品のトップがずっと大人のオムツだった。

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