反日感情をあおる本が米国で大人気

なぜいま、日本軍の捕虜虐待なのか


森川聡一(もりかわ・そういち)
ITバブル期にニューヨークに住んだ経験を持つ経済ジャーナリスト

ベストセラーで読むアメリカ

ベストセラーを見れば世相がわかる--知っているようで知らないアメリカの実相を知ることは、日本を考えることに欠かせない。

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■今回の一冊■
UNBROKEN
  筆者Laura Hillenbrand, 出版社Random House, $27

 太平洋戦争で日本兵が捕虜のアメリカ兵に加えた虐待の実態を詳細に描くノンフィクションだ。アメリカ人の反日感情を確実に高めるに違いない本書が今、アメリカでよく売れている。ニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリストの単行本ノンフィクション部門でトップ5に13週連続でランクイン。直近は2位に落ちたが、それまでは6週連続でトップだった。

日本軍による捕虜虐待

 現在も93歳で元気に暮らすルイス・ザンペリーニという、イタリア系アメリカ人の男性の数奇な生涯を追うことで、日本軍の捕虜に対する非人道的な対応を描く。ザンペリーニは19歳の若さで中距離走のアメリカ代表として、1936年のベルリン・オリンピックに出場。メダルは獲得できなかったものの、力走が観戦中のヒットラーの目にとまり、ヒットラーと握手をしたという逸話の持ち主だ。

 出場を目指していた40年の東京オリンピックが日中戦争などのために中止となり、ザンペリーニはアメリカ空軍に入隊。ところが、ハワイ・ホノルルから飛び立った爆撃機が太平洋上でエンジン故障のため墜落、からくも脱出して救命ボートで太平洋上を食料や水がないなか、鮫とも戦いながら47日間も漂流する。そして、ホノルルの南西3900㎞にあるマーシャル諸島のクェゼリン島に漂着した。別名「処刑島」と呼ばれていたその島で、ザンペリーニは日本軍の捕虜になった。

 元オリンピック選手という経歴が日本軍の目にとまり、処刑を免れたザンペリーニは日本に送られる。大船、大森、直江津と捕虜収容所を転々として45年8月の終戦を迎え母国アメリカへと生還する。本書はザンペリーニが収容所で受けた虐待の数々を冷静な筆致で描いており、それだけに逆に日本兵の残虐さが鮮明に浮き上がる。

 特に、捕虜の間でthe Birdとあだ名されたワタナベ・ムツヒロという伍長が、虐待の限りをつくす描写は圧巻だ。本書はワタナベについて、捕虜たちを痛めつけることで性的な快感を覚えるサディストだったとしている。例えば、次のような虐待の場面が無数に本書には出てくる。

サディスト "the Bird" ワタナベ

 The Bird swung the belt backward, with the buckle on the loose end, and then whipped it around himself and forward, as if he were performing a hammer throw. The buckle rammed into Louie’s left temple and ear.
  Louie felt as if he had been shot in the head. Though he had resolved never to let the Bird knock him down, the power of blow, and the explosive pain that followed, overawed everything in him. His legs seemed to liquefy, and he went down. The room spun. (p251)

 「バードはズボンのベルトの先を握ってバックル(留め金)の部分を後ろに振り、ハンマー投げをするように、自分の体に巻き付けるようにしてベルトを前方に振り出した。バックルはルイスの左のこめかみと耳にぶつかった。ルイスは頭を撃ち抜かれたような衝撃を覚えた。
  ルイスはそれまで、バードに殴られても決して倒れまいとしてきたが、打撃の強さと、激痛に見舞われ、すべてがまひした。両足が溶けるようにして、ルイスは倒れた。部屋が回った」

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