中国はいま某国で

2011年3月28日

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谷口智彦 (たにぐち・ともひこ)

慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授

明治大学国際日本学部客員教授。2008年7月まで3年間外務省で外務副報道官。元日経ビジネス記者、編集委員、ロンドン外国プレス協会会長。著書に『同盟が消える日』(編訳、ウェッジ)など。(2013年1月末日現在)

 カリブ海に寄せる中国の強い関心はどこに由来するのか。「石油」と「パナマ運河」がキーワードである。

援助額は1人当たり630ドル
石油備蓄施設も買収

 昨年末から本年初めにかけ、中国は劉延東なる共産党要人をアンティグア・バーブーダへ送った。劉は女性として党の序列を上りつめた人とかで、中央政治局委員・国務委員の肩書をもつ。迎えたカリブ海の島国は人口が9万人、面積は種子島とほぼ同じだ。

 名目上の元首として今も英国女王を戴く同国に、中国は有償・無償合計で4950万ドルの資金を与えることにした(米ドル換算額。報道では元建て。以下同)。うち4500万ドルの借款を用い、同国は国際空港にターミナルを新設する。女史はまた同国児童生徒たちに向け、中国製ノートパソコンを贈ることも約束した。

 1年足らず前2010年3月に、中国は同国へ無利子借款を290万ドル、無償資金を440万ドル与えることにした。カリブの小国はこれで2度、中国から「お年玉」をもらった。合計額は1人当たり630ドルを超す。

 観光立国のアンティグア・バーブーダ経済は、「911」と「リーマン」の後、米国からの来訪客が減り不振を続けた。そんな足元を見つつ丸ごと1国買収しようかという勢いでカネを突っ込んだのは、相手の規模からして効果が大きいと踏んでのこと。欲しいのはその「ロケーション」であろう。

 実証例がもう1つある。

 昔オランダ領アンティルと呼んだ諸島に属すシント・ユースタティウス島は、ただ1点を除くと理想的リゾート地でダイバーたちの天国である。

 不似合にも楽園の景観を損ねるその1点とは、海沿いの巨大な石油備蓄施設だ。長年サウジアラビア国営石油企業アラムコの資産だったこの設備が、1年前から中国のものになった。中国国営ペトロチャイナ(CNPC・中国石油天然気集団公司)が2010年1月、権利を買収したからである。

 中国は石油の多くをアンゴラなど西アフリカから買い、自国へ運ぶ。喜望峰を回りインド洋を抜ける経路にのみ依存するのは、万一の時に危ない。時間と運賃もかさむ。できれば別ルートを別方向に持ちたいところだ。

 希望が、実はじきにかなう。パナマ運河は開通後1世紀を経て初の拡幅工事中で、2014年中に完工したあかつき、大西洋と太平洋を巨大な船が往還できるようになるからである。

 ベネズエラからも石油の多くを輸入する中国に、中米カリブ地域へ関心を注ぐ理由は元来あった。ここにパナマ運河拡幅後開ける物流の可能性が加わり、いち早く既存備蓄拠点を手に入れたのがユースタティウスの例、今後何でも自由にできる場所の確保にかかったのがアンティグア・バーブーダのケースと見て間違いあるまい。

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