現代美術の旗手として注目を集め続ける大竹伸朗。
その創作は、今どきの「コンセプトありき」ではない。
体の内側から湧いてくる、正体のわからない衝動が原動力だ。
だからこそ、大竹の作品は、見るものを圧倒するエネルギーを持つ。
答えが半分見えているようなプランやコンセプトに基づけば、
できあがるものに安定感はあるが、それが人の心を打つだろうか。
頭の中の想定を突き破る力は「わからない」ところに宿っている。
人間って、データを取り出して分析して
先に考えるようになるでしょ
「現代美術でも、コンセプトを論理的に語ってから表現するのが基本みたいなところがあって、絵を鑑賞する時も『何を言わんとしているか』と、脳みそで見る。だから(創作の動機が)『衝動』や『直感』なんて言うとバカにされてさ。でも、体の内側から湧いてくる、正体のわからない衝動に沿って、手探りで描き続けてできたものは、いわゆる完成度は至らないかもしれないけど、表現が至ってるんだよね」
デビューから約30年、現代美術の旗手として注目を集め続ける大竹伸朗。その絵画は時に、段ボールやチラシなど「ガラクタ」と呼ばれるものまで貼り付けたコラージュで表現され、異能ぶりを感じさせる。2006年には、国内最大級の展示面積の東京都現代美術館で、企画展示室の全フロアを使用するという、日本人作家としては初めての規模で個展を催し、5万人をゆうに超える幅広い観客を集めた。
愛媛県宇和島市にある大竹のアトリエ。見上げるほどの大きさの“仕かかり品”が、いくつも無造作に置かれ、「これは何をつくろうとしているのか」と問うと、「俺にもわかんないんだよ」。あらかじめ頭で考えてもそのとおりにはならない、答えが見えたとたんに描きたいという衝動が消え失せることがあると、大竹は言う。何事も事前に計画を立てたり、知識で武装したりしないと不安でいっぱいになる現代人に、「わからないから、おもしろいんだ」という言葉は、示唆するものが大きい。
「『衝動』だけで、俺のやってることが言い切れれば、楽なんだけどね」と言うように、それで大竹のすべてを表せるわけではないが、理屈じゃない何かに動かされた時に、得も言われぬエネルギーに満ちた作品が生まれるというのが、大竹の創作活動のカギなのだろう。
「人間の感情って、喜怒哀楽の4つどころじゃなくて、複雑にミックスされたものが渦巻いていると思うわけ。外の世界の何かや夢を見た時の、心の内側のテクスチャーみたいなものを表に出そう、描くべきだって感じるんだよ」