栖来ひかりが綴る「日本人に伝えたい台湾のリアル」

2018年5月25日

»著者プロフィール
著者
閉じる

栖来ひかり (すみき・ひかり)

台湾在住ライター

京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。日本の各媒体に台湾事情を寄稿している。著書に『在台灣尋找Y字路/台湾、Y字路さがし』(2017年、玉山社)、『山口,西京都的古城之美』(2018年、幸福文化)がある。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story』

「放映前には記者会見も開かれ、モデルとなった92歳のお婆さんも出席されて、大変喜んでいたと聞いていたので、とにかく残念な気持ちでした」

 こう話してくれたのは、突然お蔵入りになった台湾ドラマ『智子之心』に日本陸軍将校の役で出演していた、台湾在住のシンガーソングライター/俳優の馬場克樹さんだ。

中国で「媚日ドラマ」と批判されて炎上

 台湾最大の仏教団体「慈済」が運営する大愛テレビ製作の『智子之心』は、太平洋戦争時の旧日本軍に看護婦として従軍した台湾人女性を主人公にしたノンフィクション・ドラマだった。5月10日に放映がはじまったのち、中国のネットで「媚日ドラマ」として炎上し、第二話が放映された後に打ち切りとなった。

台湾ドラマ『智子之心』の撮影風景。日本陸軍将校の役で出演していた台湾在住の俳優・馬場克樹さん(写真:馬場克樹さん提供)

 大愛テレビ側は会見で「心の浄化や安定を目指す当局の番組が社会に波紋を呼ぶのは好ましくない」と弁解し中国の干渉を否定したが、その後も台湾のネット上では、大愛テレビを運営する慈済の支部が中国にもあるため、その活動に支障をきたすことを慮っての「忖度」だとの意見が噴出。

 さらに中国の対台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の広報担当も「いかなる形でも日本の侵略戦争を美化することは、中台同胞双方の反対をうける」と発言したことで、大愛テレビの「中国の干渉はなかった」という弁解への疑念は強まり、台湾当局も調査に乗り出すことになった。

中国による台湾エンタメ界への侵略

 中国の台湾統一への圧力が各方面で強まっているなか、エンタメ界においても、台湾人監督・キャストによる作品が中国ネットで炎上し、中国国内で打ち切りや上映禁止に追い込まれる事態が頻発している(参考⇒『そうだ 台湾映画、見よう。~中国資本に侵食される台湾エンタメ界の苦境と希望』)。

 しかし今回は、中国ネット界の炎上が中国のみならず、台湾のテレビ局にまで影響を及ぼしている点に、事態の深刻さを感じる。全35話あったものが2話で打ち切りになった為、内容をこの目で確認するすべは今のところ無いが、実際に「日本の侵略を美化する」ような描き方がされていたのだろうか? 冒頭の馬場克樹さんに、実際に脚本を読んだときの印象を聞いてみた。

「実在の台湾の従軍看護師の人生を正面から取り上げるということで、事実に基づき構成される作品と理解していました。当時の台湾は日本統治下にあったわけですから、歴史的事実を描いたに過ぎず、どこが『日本軍の侵略を美化』しているのか、私にはまったく理解できません」(馬場さん)

 主人公の「智子」は、林智恵さんという1927年生まれの台湾女性。家族の反対を押し切って従軍看護婦として中国・広州に渡って以降、医療活動に生涯をささげ、現在も「慈済」の一員として病院でボランティア活動を続けている。演出を手掛けた楼一安監督は、最近は客家テレビで台湾人小説家・呂赫若を描いた『台北歌手』という同じく日本時代を背景にしたドラマも手掛けているが、そちらは特に問題になることはなかった。

関連記事

新着記事

»もっと見る