サウジアラビアとGCC諸国の危険な賭け
エジプトの展開と並び、サウジアラビアを中心とした湾岸協力会議(GCC諸国)〔中東の湾岸地域における地域協力機構。サウジアラビア、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、アラブ首長国連邦の6ヵ国から成る〕の産油国・君主制諸国家による、民主化を回避した安定化の試みが 中・長期的に功を奏するか、いかなる副作用をもたらすかが、注目される。エジプトが、軍が中間層の圧力を受け止め、国民統合を保って、旧政権の中枢を体制 から切断して民主化への移行期に入るというモデルを提示したとすれば、サウジアラビアは産油国の資金をもって「ばらまき」を拡大しつつ、「征服王朝」とし て支配勢力の結束を保ち、被支配者に武力で従属を強いながら、恩恵として一定の権利を小刻みに与えていく「サウジ・モデル」を提示しつつある。アラブの全く性質の異なる二大国であるエジプトとサウジアラビアが直接事を構えることはないだろうが、双方のモデルが共存して地域への影響力を競っていくことになるだろう。
サウジアラビアがアラブ首長国連邦やクウェート、カタールと結束して打ち出している「大規模デモ」の波への対応は、当面、次の四つの戦術から成り立っている。
(1)GCC諸国内については「ばらまき」による宥和と弾圧の「恐怖」を再強化する
(2)GCC諸国内については国際メディアの報道やインターネットによる情報流通を極端に規制する
(3)国際メディアの関心をリビア、シリア、イエメンに集中させ、自らも非難を強め仲介に乗り出して見せる
(4)国内問題の原因をイランに帰す
サウジアラビアは、国内の政府批判の動きを大規模な治安部隊の出動で封じ込め、勢力圏のバーレーンに軍を進駐させ、過酷な弾圧を後押しした。同時に、「荒れた裏庭」とも言えるイエメンでは、サーレハ大統領の退陣を前提とした仲介を行い、デモに理解を示して見せている。
その際に、イエメンやリビア、そして最近はシリアについては、スポンサーとなってきたアル=ジャジーラやアラビーヤでの大々的な報道がなされ、「人権」「革命」「民主化」の言葉が躍るのに対し、バーレーンやサウジアラビア、アラブ首長国連邦内部での弾圧のニュースは極端に制限している。サウジアラビアの東部州や、西部ヒジャーズ地方の中心都市ジェッダでの争乱は、アラビア語国際衛星放送で全く報じられず、インターネット上でかすかに伝わるのみである。
GCC諸国は、リビアに対するように(そしておそらく今後はシリアに対しても)率先して制裁を推進していくことで、国際社会の関心を湾岸産油国内部での反体制運動や人権弾圧から逸らそうとしていると見ることができる。リビアとシリアで混乱が続き、国際社会が対応に追われれば、これ以上の中東の混乱を望まないとする政治判断を米国や西欧諸国が採用すると読んでいるのだろう。カタールやアラブ首長国連邦はリビアへの軍事制裁に戦闘機を参加させたとされるが、実質的なものとは見られておらず、内外への象徴的な動きとみられる。
これらの対処策はいずれも一時的なものに過ぎない。リビアやシリアの問題が長期化すればその間は凌げるものの、湾岸産油国の国内問題がそれによって解決するわけではない。アル=ジャジーラやアラビーヤなどの国際メディアの統制も、エジプトなどのメディアが伸長してきた場合は綻びが出る。何よりも、これらの現場のジャーナリストがいつまで沈黙を保つか定かではない。