Washington Files

2018年7月19日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 大統領の政策立案を陰で支えるCIA、NSAなど米国秘密情報機関とホワイトハウスの関係が、トランプ政権以来、危機的状況を迎えている。きっかけは、ロシアによる2016年米大統領選への介入とトランプ候補支援だった。

 トランプ大統領就任式を間近に控えた昨年1月6日、CIA(中央情報局)、FBI(連邦捜査局)、NSA(国家安全保障局)の3機関からなるアメリカのインテリジェンス・コミュニティは、ロシアが2016年米大統領選でヒラリー・クリントン民主党大統領候補(元国務長官)当選阻止のために暗躍した疑惑について「最近の米国選挙におけるロシアの諸活動とその意図についての評価」と題する調査レポート(略称ICA)を公表した。

2016年の大統領選挙でロシアの介入がなかったとの認識を示した発言について「言い間違いだった」と釈明するトランプ大統領(REUTERS/Leah Millis/Aflo)

 ふだん厚い秘密に包まれたこれらの情報機関が、簡略版とはいえ調査内容を共同で公開したこと自体異例だったが、その中で、

  1. プーチン・ロシア大統領が2016年米大統領選に対する影響力行使作戦を命令した。
  2. その中には民主党幹部や同党政治家のメール・ハッキングなどサイバー攻撃も含まれていた。
  3. プーチン大統領の狙いはヒラリー・クリントン民主党大統領候補をおとしめ、トランプ共和党候補の当選を支援することだった。

 などの点が指摘された。報告書は、ロシアがこの作戦に際し、事前にトランプ陣営と接触があったかどうか、また、作戦が具体的にトランプ選出のためにどれだけ効果を発揮したかどうかについては、何も触れなかったが、ロシア大統領が米国大統領選挙への介入を直接支持したと断定したこと自体、重大な指摘であり、大きな話題となった。

 しかし、当選したトランプ氏にとっては、選挙の正当性に冷水を浴びせられたかたちとなり、それ以来、自国のインテリジェンス機関に対する不信感をあらわにしてきた。

 大統領に就任するとただちに同報告書について「まったく根拠のないでっち上げだ」「FBIやCIAは従来からロシアに対する偏見で凝り固まっており、信用できない」などとこきおろした。

 また、歴代大統領が毎朝一番にオーバルオフィス(執務室)でCIA長官から受けてきた、世界情勢に関するトップシークレットの「デイリー・ブリーフ」と呼ばれる30分近くの説明についても、トランプ大統領の場合、その価値自体を軽視し、5~6分程度で切り上げさせたり、説明なしですませることが慣例化してきた。

 さらには、大統領は昨年5月、ロシアとトランプ陣営との関係の有無について独自に捜査してきたジェームズ・コーミーFBI長官を解任する事態となり、トランプ・ホワイトハウスと情報機関当局との間のミゾは深まる一方だった。

 この問題について米議会では、同じ共和党でも下院、上院で対応が分かれている。

 たとえば、下院情報調査委員会(デヴィン・ヌネス委員長)はロシア疑惑について、去る4月27日、同委員会の見解として「ロシアが米大統領選挙に直接関与したと決定づける証拠はない。トランプ陣営との共謀の事実もない」と結論づけた。

 トランプ大統領はこれを歓迎し、ただちに自らのツイートで「下院のレポートがたった今公表された。ロシアとの共謀も協調もなかった。ロシア疑惑捜査は完全な“魔女狩り”であり、ただちにやめるべきだ」として、情報機関への不信をさらに募らせた。

 しかし、かねてから真相究明に消極的だった下院委員会とは対照的に、意欲的な調査を続けていた上院情報調査委員会(リチャード・バー委員長)が去る7月3日、今度は下院と対立する報告書の公表に踏み切ったことで、状況をさらに複雑化させてきている。

 同報告書では、

  1. 2017年1月のICAレポートは十分な調査にもとづいたものであり、信用できる。
  2. 当委員会は、プーチン大統領自身が対米選挙工作を承認したとのICAの結論に同意する。
  3. ロシアがクリントン大統領候補の信用失墜に関与したことは明白だ。
  4. プーチン大統領とロシア政府は米大統領選で明らかにトランプ候補の当選を望んでいた。

 などの点が改めて浮き彫りにされたからだ。この結論は、もともと党派色の濃い下院情報委員会のおざなりの調査とは異なり、超党派で客観性に富んだものだっただけに、ロシアの選挙介入を一貫して否定してきた大統領にとって大きな痛手となったことは間違いない。

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