アメリカのバイオ系ベンチャー企業を見ると、開発した技術を大手製薬メーカーなどにM&Aで買い取ってもらうことが出口戦略となっていることがわかります。しかし、日本ではM&A自体が盛んではありませんし、株式公開を出口に求めたとしても、日本の株式市場の状態は良くありません。結局、日本ではバイオベンチャーにとって出口戦略がないまま、下からは人員ばかりがどんどん供給されてくる。それで行き場のない人間が、ポスドクとして大学に滞留するという現象が起こっているわけです。
バイオベンチャーを本気で育てるつもりなら、社会制度を根本から変えるくらいの荒療治が必要ですが、これも一朝一夕にできるものではないでしょう。それならば、いっそ学部を閉鎖してしまったほうがよい、というのが私の考えです。
──バイオ系の学部で博士を取られた方は、その後どのような道に進まれているのでしょうか。
橋本氏:まったく関係ない仕事をしていたり、路頭に迷っていたりします。営業的なセンスとかマネジメント系のセンスがある人は、技術営業職とかにうまくスイッチしますが、一番悲惨なのは教授の召使いとして過ごしてきた人間です。
とくにバイオ系というのは実験をいっぱいやりますから、人手は多いほうがいいんです。教授からすれば、あの手この手で大学院に残らせて博士課程に進ませれば、修士2年と博士3年の計5年間は学費を払わせつつ、大学院のスタッフとして使えるわけです。いわゆるアルバイト的な仕事しかさせていなくても、学位は与えられてしまいます。なぜなら教授にとって、5年間も通わせておきながら学位を与えなければ、アカデミックハラスメントで訴えられるリスクがあるからです。それで、博士号は持っていても技術アシスタントレベルという人間が、大量に輩出される結果を招いてしまっているのです。
「材料系」にこそ、人材の重点配置を
──バイオ系の学部を思い切って縮小していくとしても、日本の国力を維持していくために、逆に増やしたほうがよい分野というのはあるのでしょうか。
橋本氏:あります。それは工学部系、中でもとくに材料系です。材料系は一度アドバンテージを取ると、なかなか後続が追いつけない分野です。ある化学メーカーでは、一瓶で数千万円もする材料があって、それは粒子をミクロン単位で制御できる非常に高度な技術のうえに成り立っているものですが、驚くことに原価はほとんどゼロだと聞いています。これは30~40年前に開発された技術で減価償却も済んでおり、すでに世界シェアの8~9割を握っているそうですから、今さら競合がひっくり返すことは不可能に近いでしょう。こうした日本人の器用さを生かせるものづくり系の分野では、重点的に人を配置していく必要があると思います。
──それでは、大学側がバイオ系の学部を縮小しつつ、工学部系のポスドクを増やすように判断して変えていけばよいのではないでしょうか。
橋本社長 バイオ系の学部を減らす判断を、わざわざ大学側はしないでしょう。これは文科省にも言えることですが、バイオ系の学部を閉鎖すれば、これまで自分たちがやってきたことを否定することになります。いわば責任を認めることになるわけで、「判断しない、責任を取らない」という文科省や大学の体質が、そう簡単に変わるとは思えません。政府主導で、バサッとやってしまうしかないと思います。
一方で、こうした文科省や大学の体質そのものを変えていくには、20年から30年のスパンが必要だと思っています。大学には、そもそも「経営の概念がない」という根深い問題があります。
⇒次ページ 「産学連携」を大学変革のトリガーに