チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年5月20日

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平野 聡 (ひらの・さとし)

東京大学大学院法学政治学研究科教授

1970年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部教授。アジア政治外交史担当。著書に『大新帝国と中華の混迷(興亡の世界史17)』(講談社)、サントリー学芸賞を受賞した『清帝国とチベット問題 多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会)がある。

*前篇はこちら

 ここまで「前篇」で述べてきたように、中国人の対日認識は短期的には「改善」し、政治的冷戦は「休戦」状態となっているのかも知れない。しかし現実には、ロシアの北方領土へのテコ入れ再開や中国の尖閣に向けた監視船派遣再開など、背後では日本の苦境や日本への同情論と関係なく国益拡張の動きをとっている。

 そして、日本は中国にとって憧れの国であり(どれだけ反日的態度をとる立場であっても、その裏には必ず嫉妬心がある)、一世紀以上にわたって後塵を拝してきた国であることから、震災を奇貨として日本が必要とする中国製品を積極的に供与し、日本によって認められることで、中国人としての喜び・誇りを得ようとする発想があらわれている。さらには、日本で電力不足・部品不足のために行き詰まった企業、とりわけ日本が門外不出としてきた核心的な技術を要する企業に対し、中国が破格の優遇条件を提示して誘致し、その技術を効率良く吸収することで、中国製品の国際的な地位を飛躍的に高め、行く行くは完全に中国で生産された高付加価値な製品を日本が積極的に需要するという局面を切り開かなければならないと説く議論も現れている。

 総じて、中国の産業を労働集約型から技術集約型へと転換させ、中国製品の国際的競争力を高め、ひいては中国のソフト・パワーを強化しようとする議論のことを「産業昇級」論という。そして、その視線の先においては常に日本に照準が固定されていることに注意する必要がある。

原発冷却の機械を日本に無償供与した中国

 例えば、福島第一原発の冷却のために中国・三一重工製のコンクリート注入機が無償かつ迅速に供与されたが、このことは日本人の想像をはるかに超えて中国人の「日本に認められた」プライドと喜びを激発した。

 共産党機関紙・人民日報社のサイト『人民網』に所収の、三一重工営業担当者へのインタビュー記事(http://world.people.com.cn/GB/14325721.html)によると、この企業は特殊建設機械のメーカーとして、チリの鉱山事故でも救出機器を提供し国際的な実績を高めていたものの、たまたま震災直後に進められていた大阪の超高層ビル建設現場へのコンクリート注入器販売交渉では、記念すべき日本への初販売交渉であるにもかかわらず強硬に値下げを求められて苦心していた。そこに急遽湖南省の本社から「東京電力からの打診があったため即座に東京へ行け」という社命が下り、放射能汚染の恐怖をこらえて東電本社に向かうと、価格の如何は問われず納期が何時になるかを問われ、この社員は「日本人が中国独自の製品を喉から手が出るほど欲している」という現実に驚喜した。

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