漁業復興 カギは漁業権の開放


小松正之 (こまつ・まさゆき)  政策研究大学院大学教授

東北大学卒、エール大学経営学大学院修了(MBA取得)、東京大学農学博士号取得。 在イタリア大使館一等書記官を経て、水産庁漁業交渉官として捕鯨を担当。2000年から資源管理部参事官、2002年8月1日から2005年まで漁場資源課長。元国際捕鯨委員会(IWC)日本代表代理、元国連食糧農業機関(FAO)水産委員会議長、元インド洋マグロ漁業委員会日本代表。2005年4月から水産総合研究センターに理事(開発調査担当)として出向。2007年12月3日水産庁増殖推進部付。辞職。現在、政策研究大学院大学教授。著書に、『日本の食卓から魚が消える日』(日本経済新聞出版社)、『これから食えなくなる魚』(幻冬舎)など多数。2005年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれる。2010年行政刷新会議農林水産業地域振興WG委員(菅直人首相任命)

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ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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3月11日に起こった東日本大震災による、東北地方の漁業への被害は甚大です。青森、岩手、宮城、福島のほぼ全港が全損、ないし一部破損し、かき、わかめ、ほたて、ホヤ、銀鮭などの養殖施設は全滅、沿岸の定置網もほぼすべて流されました。

 東北地方は、漁業・養殖業で日本の生産量・金額の約15%を占める大生産地で、水産加工・冷蔵冷凍業でも同様です。漁業者は全国の15%に当たる約36000人がいます。そして、これらの全てが沿岸部の被災地に集中していました。つまり、大震災・津波からの復興は水産業の復興と言っても過言ではありません。

水産業復興マーシャルプラン

 現在私は、東北地方の水産業復興マーシャルプランを作成中です。論点は3つあり、(1)壊滅した水産インフラの重点的整備、(2)外国との共同海洋汚染調査による水産物の安全性への信頼性回復、(3)水産法制度改革による新規参入化と雇用の創出 を掲げています。(1)については、大船渡湾口防波堤などの効果検証と今後の建設の当面の凍結や、漁港と加工施設の一体的整備などが必要と考えています。(2)については、原子力産業から独立した海洋に関する放射能研究所を直ちに創設し、国内外の研究者による客観的な研究を推進することが解決策と考えます。

 しかし、たとえこれらが実現されても、60歳以上の高齢者が基幹漁業の約50%を占めていて、後継者も25%しかいない状況では、将来的に水産業の発展は見込めません。漁協が既得権を手放さず、漁業権が開放されないため、新規参入が現実的になかなか難しいというのが現状です。漁協の小規模漁業者たちだけでは、ビジネスとして「儲かる漁業」にはほど遠い上、集約が進まなければ資源管理の問題も解決されません。そこで、(3)水産法制度改革による新規参入化と雇用の創出 が非常に重要となってきます。

 まず、民間企業などの水産業への新規参入を可能にするためにも、漁業協同組合(漁協)を通ずる漁業権の許可に加えて、県が直接民間企業に養殖業や定置網漁業を許可することが必要です。農業は農協に加入しなくても、農協以外の別法人を作るなど、自立して営んでいる農家はたくさんいますが、漁業は、大臣や知事の許可漁業以外では、基本的に漁協に入らずに沿岸で漁業や養殖をすることは不可能です。つまり、漁業の運命は漁協と一蓮托生にあると言っても過言ではありません。漁業の明るい未来のためには漁協の抜本的な改革が不可欠です。

 現在、漁協が行っている通常事業には、信用事業(金融業)、保険事業、販売事業、道具やえさなどの購買事業などがありますが、ほとんどの漁協でこれらの事業は赤字で、補助金などでなんとか黒字にしている状況です。予算の計画作成、事業の運営などもどのように意思決定されているのか不透明で、きちんとした外部監査もなく、民間企業であれば倒産して当然の状況にある組合が多いのです。最近も、9億円の負債が判明した漁協がありました。

「水産業復興特区」と漁協の抵抗

 今回の震災後に、私の出身地である岩手県・陸前高田市を含め、被災した東北地方の漁村をいくつか見て回った際、ある漁業者が「漁協は自分たちの直営事業である定置網漁業の再開に熱心だが、組合員の営む養殖業などの再開には全く熱が入っていない」と話していました。本来は漁業者のために存在するはずの漁協が、「漁協のために漁協が存在している」という本末転倒な事態に陥っており、その体質を変えるのはかなり困難と思われます。

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著者

小松正之(こまつ・まさゆき)

政策研究大学院大学教授

東北大学卒、エール大学経営学大学院修了(MBA取得)、東京大学農学博士号取得。 在イタリア大使館一等書記官を経て、水産庁漁業交渉官として捕鯨を担当。2000年から資源管理部参事官、2002年8月1日から2005年まで漁場資源課長。元国際捕鯨委員会(IWC)日本代表代理、元国連食糧農業機関(FAO)水産委員会議長、元インド洋マグロ漁業委員会日本代表。2005年4月から水産総合研究センターに理事(開発調査担当)として出向。2007年12月3日水産庁増殖推進部付。辞職。現在、政策研究大学院大学教授。著書に、『日本の食卓から魚が消える日』(日本経済新聞出版社)、『これから食えなくなる魚』(幻冬舎)など多数。2005年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれる。2010年行政刷新会議農林水産業地域振興WG委員(菅直人首相任命)

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