WEDGE REPORT

2018年8月25日

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竹田有里 (たけだ・ゆり)

環境ジャーナリスト

環境ジャーナリスト。TOKYO MXでニュースキャスター、社会部・政治部記者を歴任。災害報道や環境番組を制作した後、フジテレビの環境ドキュメンタリー番組「環境クライシス」の記者として企画制作・出演。その傍ら、上智大学地球環境学研究科(修士)に在籍し、今秋修了予定。その他、雑誌・ウェブページでも執筆。文化放送「斉藤一美ニュースワイドSAKIDORI!」でサブキャスター・記者としても活躍。

 モンゴルが世界最悪級の大気汚染に見舞われているのをご存知だろうか?首都ウランバートルの大気汚染は、中国・北京の5倍といわれるほど深刻である。モンゴルといえば、青々と生い茂った草原と大地を馬とともに駆け回る遊牧民の姿を思い描く人が大半だろう。なぜモンゴルで大気汚染なのか?筆者はフジテレビ地上波で放送されたドキュメンタリー番組「環境クライシス」のディレクター兼ナビゲーターとして氷点下40度にもなる冬の凍てつく大地へ降り立った。

 中央アジアの山岳地帯、標高4300mのアルタイ山脈を超えると、見渡す限りの広大な草原地帯が広がっている。「人は馬の上で育つ」と言われるこの国は太古の昔から遊牧民の国だった。しかし、1990年の民主化以降、首都ウランバートルへの流入が激増し、国の人口約318万人のうちウランバートルの人口は146万人と半数を占めている。ちなみに遊牧民は95万人ほどで、家畜数は、全人口の20倍、約6000万頭と言われている。

 増幅の一途をたどるウランバートルは、近年深刻な大気汚染に悩まされている。そもそもウランバートルは盆地であるため、大気が留まりやすい。冬は世界平均の25倍もの汚染物質で大気が充満し、ついに“世界最悪の大気汚染“というレッテルを貼られることになった。

首都ウランバートルの街を覆うスモッグ

 事実、数メートルの先の信号の表示が“ガスって”見えないので交通事故に危うく遭うところだった。息を吸うと何かが入り込んでいて喉や鼻を刺激するわ、目なんて沁みて痛いわで、スーパーでマスクとサングラスを急遽購入した。街ゆく人たちは、おしゃれな皮のコートを身にまとっているが、表情を伺えない。咳き込む人も多く、数日経つと、唾を吐く人の姿は見慣れてしまった。

 現場や人々を取材する中でこの惨状の原因が見えてきた。気候変動である。

 気候変動によって放牧を放棄せざる得なくなった元遊牧民たちが、ウランバートルに押し寄せ、ゲル地区と呼ばれる遊牧民たちのゲル(移動式住居)の密集地域を形成した。この都市スラムで彼らは廉価な石炭で暖をとったり料理をしたりしてギリギリの生活を送っている。元遊牧民たちは、口々に「ゾドにやられた」と叫んだ。遊牧民たちに何があったのか?ゾドとは一体何者なのか?

冬の魔物「ゾド」

「ゾド」で死に絶える家畜

 今年の冬、ゾドによる被害が最も大きかったウランバートルから西へ400キロのウルハンガイ県に向けて車を走らせた。いたるところで、家畜の死骸が無残にも四方八方に転がっていた。

 ゾドとはモンゴル語で寒雪害を意味する。ゾドの発生要因は、冬の草地を覆う雪氷の増雪や夏の少雨や干ばつなどにより牧草の欠乏が続く気候状態である。ゾドが発生すると家畜は夏に十分な牧草を食べられず、脂肪が蓄えられなくなり、越冬できず大量の家畜が死に絶える。国民の約30%が遊牧民であるモンゴルでは、家畜を失うことは財産を失うこと同じ。多くの人々の命や生活をも脅かすことになる。

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