食の安全 常識・非常識

2011年6月24日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ライターに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008受賞。2011年4月、科学的に適切な食情報を収集し提供する消費者団体「Food Communication Compass(略称FOOCOM=フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」を開設した。

 テレビ番組や週刊誌などが「放射能を抜く食べ方」を盛んに特集しています。やれ、「焼くのではなく煮物を」「牛乳よりチーズやバターを」「魚は内臓を捨てて」……。これらに根拠はあるのでしょうか?

煮たり茹でたりがよいのは、たしかだが……

 文献等によれば、焼くのではなく煮物を、というのは本当。東京電力福島原子力第一発電所の事故では、主に放射性ヨウ素と放射性セシウムが放出されました。放射性ヨウ素は、放射線を出して安定化するまでの期間が短く、放出されたほとんどの放射性ヨウ素はすでに、放射線を出す力を失っているので、もう気にする必要はありません。一方、放射性セシウムの一部の種類は、影響が長く続きます。そして、この放射性セシウムは水溶性です。

 食品を焼いたり揚げたりすると、水分のみが蒸発して放射性セシウムは残ってしまいます。しかし、煮物にしたりゆでたりすると、放射性セシウムの一部は煮物やゆで汁に溶け出して行きます。したがって、煮汁やゆで汁を捨てればよいのです。牛乳ではなくチーズやバターを、というのも同じ理屈。水分を捨てれば、放射性セシウムの摂取量は減ります。

 しかし、魚は内臓を捨てて、というのはウソ。昔の文献にこう書かれているものがあり、週刊誌などは盛んに書き立てていますが、実際には放射性セシウムは内臓よりは筋肉(魚の身の部分)に多く含まれます。セシウムはカリウムという自然界に多くある元素と性質がよく似ており、同様の挙動を示すのですが、カリウムは動物においては、神経機能や細胞内外の浸透圧調節に深くかかわり、筋肉に多く存在し不足すると筋肉けいれんなどを引き起こします。したがって、放射性セシウムも筋肉に多いのです。これまでの独立行政法人水産総合研究センターの調査でも、どの魚種においても放射性セシウムの含有量は内臓よりも筋肉の方が高くなっています。

そもそも、汚染されていない食品が多い

 しかし、こうした“除染”が有効なのは「食品が放射性物質で汚染されている」というのが大前提。では実際にはどうか? 実は今、出回っている食品は、汚染されているものが多いとは言えない状態だと私は考えています。

 現在、福島県と周辺の各県が盛んに食品を調べており、国も緊急モニタリング調査をしています。その結果は厚労省や水産庁のウェブサイトでまとめて発表されています。

 厚労省では6月20日現在、5501検体の食品の検査結果を公表しており、それを見ると農産物に関しては、タケノコ、ウメ、お茶、シイタケなど一部の産品を除き、野菜や肉、牛乳はほぼ不検出です。

<厚労省のまとめている検査結果>
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001ceor-att/2r9852000001cest.pdf

 これは、考えてみれば当たり前の話。原発事故当時、放射性物質が大量に大気中に放出され、降下(フォールアウト)しました。したがって、地面で葉を広げているホウレンソウなどの農産物に多く付着し暫定規制値を超え、出荷制限や摂食制限が講じられ処分されました。その後、警戒区域や避難区域が設けられ、汚染の深刻な地域ではもう、農業は行われていません。

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