これらの事業の多くは、企業が主体となり、きちんと収益をあげることを目指します。現在まだ選考途中ですが、野菜工場やコミュニティ食堂については大手企業がいくつか候補となっています。
高齢者の健康維持には、自身の「食」に関心をもつことが重要となります。農業に取り組むことで自分が口にする食べ物や健康についてより真摯に考えるようになれば良いと思いますし、今までの仕事に取り組む姿勢を活かしてコツコツとまじめに作業をするでしょう。また、学童保育なども、自身の子育てのノウハウなどを活かせるなど、これら7つの事業は高齢者だからこそ担ってほしい仕事なのです。
「生きがい就労」は、高齢者の方々が、「無理なく、楽しく」働けることが重要ですので、それぞれのライフスタイルに合わせてフレキシブルに仕事に取り組めるのが理想です。従って一つの仕事を複数人数で取り組む「ワークシェアリング」のようなイメージとなりますので、仕事を分担する役割が必要となります。その機能を備えた「オフィス7(セブン)」を来月7月に立ち上げる予定です。ここにはまず大学からも人を派遣してサポートしますが、将来的にはやはり地域の人たち、高齢者たち自らで担っていってもらいたいと考えています。
――働いて少し潤った分で、ゲームセンターでもどこでも、楽しく遊ぶことは決して悪いことではないのかもしれません。
秋山特任教授:そうですね。働くことによる収入や社会貢献があってこその楽しみ方だと思います。
働きに出れば、適度に身体を動かし、人と触れ合い、様々な刺激を受けられます。人は、ほとんどの場合死を迎えるまでに徐々に弱っていきます。健康な期間を少しでも長くするためにも、「介護予防」という観点からこうした就労は非常に有効でしょう。
「生きがい就労」では、高齢者の方々は今まで培ってきたスキルなどを活かせますし、仕事の内容としても若者の雇用を奪うことにはなりません。また、地域で働くのではなく、定年後ももう少し勤めてきた会社で働きたいという人もいるでしょう。皆がみな地域で働くことを強制するわけではありません。あくまでも一つの選択肢として、地域でも高齢者の雇用の場をつくるということに力を入れていくことも重要だと考えます。セカンドライフを充実させるための多くの選択肢が用意されれば、日本中が“Aging in place”(いくつになっても住みやすい街)の実現に近づくと思うのです。
秋山弘子(あきやま・ひろこ)
東京大学高齢社会総合研究機構特任教授。イリノイ大学で博士号取得。米国国立老化研究機構(NIA)フェロー、ミシガン大学研究教授、東京大学大学院人文社会系研究科(社会心理学)教授を経て、現職。日本学術会議会員。専門=ジェロントロジー(老年学)。超高齢社会におけるよりよい生のあり方を追求。
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