2024年4月20日(土)

日本の新常識

2011年6月29日

最近、ゲームセンターに出入りする高齢者が増えているという。「競馬やパチンコなどのギャンブルよりも安上がりで安心」「ボケ防止になる」などが理由で、比較的世間も好意的に受け止めているようだ。しかし、そのような場所が高齢者にとって本当の意味で居場所となるのかは疑問である。東京大学で老年学(ジェロントロジー)を研究する秋山弘子特任教授は、高齢者のセカンドライフにおいて「働くこと」に価値を見出している。

――定年退職後も、高齢者は何らかの形で働くべきとお考えとのことですが。

秋山弘子東京大学特任教授(以下秋山特任教授):日本人の平均寿命は現在男性が80歳、女性が86歳と、今は人生90年時代で、リタイア後も数十年の時間を過ごすことになります。平均寿命が50、60歳の時代であれば、退職後の過ごし方をそこまで考える必要はなかったのですが、現在はそういうわけにはいきません。

 都市部の、特に男性に多く言えますが、朝早くから夜遅くまで働いてほとんど地域と関わることのなかった人たちが、定年後急にその地域で一日中過ごさなければならないという状況に直面します。確かに、地域には趣味の会やボランティアの会、町内会・自治会、なかには「地域デビューセミナー」といわれるものが用意されていたりと、様々なコミュニティや家から出るきっかけは存在しますが、そういった場に自ら積極的に飛び込んでいく高齢者の方はだいたい1割と言われています。残りの9割はなかなか一歩が踏み出せない。そうすると、時間をもてあまして、最近ではゲームセンターなどに遊びに行くのかもしれません。そこでもそれなりの楽しみと人間関係が築けるのかもしれませんが、それだけでは少し寂しい気がします。

 私たちの調査チームが多くの高齢者の方々に聞き取り調査を行った結果、一番外に出やすいのは「仕事」だということが分かりました。日本人の特徴として、リタイア後も就労意欲の高い人々が多いのです。これを活かし、高齢者がいつまでも元気で地域で生活していける街づくりが必要ではないかと考えました。

――そういった街づくりのモデルとして、千葉県柏市の豊四季団地で、「生きがい就労事業」に取り組んでいらっしゃいます。

秋山特任教授:柏市はまさに都市部のベッドタウンとして開発が進められてきましたが、今では人も建物も高齢化という問題に直面しています。そこで、行政やUR都市機構と協力し、2年ほど前から「高齢者の住みやすい街」を目指した街づくりに着手しています。

 その中では、建物の改築やインフラ整備、在宅医療や介護の充実も扱っていますが、私が特に重要と考えるのが「生きがい就労」への取り組みです。現役時代のような、生活維持のためのフルタイムでの就労ではなく、無理なく楽しく働くことができ、その上単なる趣味の会ではなかなか得られない地域社会への貢献による「生きがい」を感じることができる働き方を実現したいのです。年金にプラスして収入を得られれば生活に潤いが生まれるでしょうし、それで地域にお金を落としてくれれば「年金受給者」だけでなく「納税者」ということにもなり、地域にとってもプラスとなります。

 柏市のプランでは、7つの「生きがい就労」事業を計画しています。休耕地を利用した「都市型農園事業」、団地内の空き部屋を利用する「ミニ野菜工場事業」、団地の建替えに伴って屋上をリニューアルし行う「屋上農園事業」。これらはこの地域ならではの特色を利用した事業です。他には、地域の人たちのための「コミュニティ食堂事業」、そこでの「配食サービス事業」や、地域の人々の簡単な依頼を請け負う「生活支援事業」、子どもたちのお世話をする「(学童)保育事業」の7つです。

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