ドイツが深刻な産業空洞化のリスクに直面している。ドイツといえば2023年、ドル換算した国内総生産(GDP)で日本を上回る第3位に浮上したことが記憶に新しい。
だが、23年の実質GDPは前年を0.2%下回り、主要7カ国(G7)で唯一のマイナス成長に沈んだ。24年も同様に、ドイツ政府の経済諮問委員会は前年比0.2%、ドイツ商工会議所連合会(DIHK)もゼロ成長で停滞が続くと予測している(いずれも24年5月時点)。
輸出型製造業を牽引役とするドイツ経済が産業空洞化のリスクに直面するのは、東西統一後で2度目である。1度目はドイツが「欧州の病人」と形容された1990年代から2000年代初頭にかけて、グローバル化の加速による競争圧力の増大にさらされた時のことだ。ドイツは、この難局を、社会保障と労働市場の一体改革(ハルツ改革)や政労使が協調し実質賃金を切り下げることにより競争力を回復させて乗り切った。
さらに、市場経済に転じたロシア、中国との結びつきを強め、単一通貨のユーロ導入(1999年)、中東欧などの欧州連合(EU)加盟(2004年5月~)といった、欧州統合の深化と拡大を追い風に変えた。
そのドイツが、再び産業空洞化リスクに直面することになったのは、グローバル化が逆回転し始めたからだ。コロナ禍はグローバルに広がる供給網の脆弱性を浮き彫りにした。加えて、22年に始まったロシアのウクライナ侵攻を機に、西側とロシアの対立は決定的になった。米中の技術覇権争いも先鋭化し、主要国・地域は補助金を活用した産業政策や貿易制限措置を競い合う。こうして一体化が進んだグローバル経済は断片化しつつある。
ドイツの産業にとって、ロシアとの関係悪化、中でもパイプラインを通じた天然ガス供給が停止された影響は大きい。液化天然ガス(LNG)の調達で代替され、価格も22年夏のピークに比べれば大きく低下したが、長期契約によるロシア産ガスに比べて割高だ。化学産業は、自動車や電機、一般機械と並ぶドイツの産業の稼ぎ頭だが、素材としてもエネルギーとしてもロシア産のガスを活用してきたため、とりわけ深刻な打撃を受けることになった。
中国との関係の変化も産業空洞化の圧力となっている。昨年5月の広島サミットでG7は対中国の過度な依存を見直すデリスキング(リスク軽減)で合意した。中国ビジネスへの依存度が高いドイツの自動車・化学メーカーも、供給網のデリスキングに取り組んでいるが、その戦略の特徴は、中国への投資拡大による中国ビジネスのローカル化、現地生産の強化にある。それは、中国への輸出拠点としてのドイツの地位が低下することを意味する。