2025年5月23日(金)

Wedge OPINION

2025年4月22日

 トランプ旋風が世界中に吹き荒れている。

相互関税の発表日を「米国解放の日」と表現するトランプ大統領。世界経済の行方は?(CHIP SOMODEVILLA/GETTYIMAGES)

 トランプ米大統領は、2月4日の対中追加関税10%を手始めに、3月4日にはカナダとメキシコへの25%関税を発動し、3月12日には鉄鋼・アルミへの25%関税を例外なく全ての貿易相手国に対して発動した。4月2日には世界各国からの輸入品に対して「相互関税」をかけると公表した。日本には24%、欧州連合(EU)には20%、中国には計54%の税率が適用される(4月5日時点)。どれをとっても世界経済への強い逆風になることは明白だ。

 「一強」と言われる米国経済は、昨年よりも減速するものの潜在成長率を上回る2%台の成長ペースを維持すると見られてきた。物価動向も高止まりの傾向が続いており、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は幾度となく「利下げは急がない」と表明し、今年は暫く様子見に転じる姿勢を明らかにしていた。ウォール街でも、米国経済の足腰の強さが米国株の堅調さを支えるとの見方が大半であった。

 だが、そんな強気な見方は急速に後退し、関税が米国内の物価引き上げを招くことは不可避との懸念から、企業や家計の心理が急速に悪化してきたのである。米国株市場には「景気後退」への不安が台頭し、3月中旬にはトランプ氏勝利以来の上げ幅を全て吐き出して、主要株価指数は調整局面に入った。

 現実的には、米国経済がマイナス成長に陥るリスクよりも、関税によって物価が押し上げられるのと同時に不況感が強まる「スタグフレーション」の可能性が高い、と見るのが適切だろう。それは二度にわたる石油危機によってもたらされた1970年代のスタグフレーションの再来であり、当時金融業界に身を投じた筆者にとっては何か「振り出し」に戻ってきたような感覚である。

 景気失速や株安を嫌うトランプ大統領がこうした動きに反応して矛先を引っ込めるのではないか、と期待した市場は、同氏が景気後退シナリオを否定しなかったことで失望することとなった。

 経済政策の舵を取るベッセント財務長官は「成長基盤を政府から民間へとシフトさせようとしている過程で混乱が生じる可能性はある」と述べ、公的支出依存から脱却するに際しては自然な調整は起こりうるとして、傍観する姿勢を見せた。また株価情報は政策判断の一部材料でしかないとも主張するなど、第二次トランプ政権は第一次と違って景気鈍化や株価下落をあまり気にしていない印象である。

 だが、関税の影響を受ける貿易相手国にそんな余裕はない。

 カナダにとって米国は最大の輸出先であり、自動車やエネルギー、金などの対米輸出は全体の70%以上を占めている。トルドー前首相そしてカーニー新首相が危機感をあらわにして報復関税を発動したのも無理はない。

 メキシコにとっての対米輸出も自動車を中心に全体の80%以上を占めており、関税はまさに死活問題だが、同国のシェインバウム大統領は報復よりも交渉を優先する姿勢を示している。


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