国際金融市場を振り回すトランプ政権の一挙手一投足はスティーブン・ミラン大統領経済諮問委員会(CEA)委員長が2024年11月に発表した論文「A User’s Guide to Restructuring the Global Trading System」の内容に即していると言われる。同論文の論点は多岐にわたるが、為替市場の観点からは、米国の慢性的な貿易赤字と製造業の衰退の主因を「ドルの過剰評価」にあると指摘している点が特筆される。
準備通貨として大きな需要を背景にドル高が定着する中、製造業分野での競争力が劣化しているという分析である。これを解消するために提案されている枠組みが巷間で話題となっている「マールアラーゴ合意(Mar-a-Lago Accord)」である。同論文では「21世紀版の多通貨合意(a 21st Century version of a multilateral currency agreement)」だと称している。
改めて整理するマールアラーゴ合意
その内容を要約すれば①ドル相場の意図的な減価、②米国債の超長期化、③安全保障と経済政策の連携、④関税の戦略的活用に集約できる。
いわゆる1985年のプラザ合意と重ねて注目されるのは①の論点にフォーカスされているためだが、マールアラーゴ合意ではこれまで線引きされてきた安全保障分野の議論と経済分野の議論が統合されていることに特徴がある。通貨・通商・安全保障政策の一体運用というのがマールアラーゴ合意最大の特徴だろう。
こうした枠組みで議論を向けられると安全保障面で米国への依存が大きい日本や韓国のような国(特にアジア大洋州の国々)は反論に窮する。しかし、日本の場合、世界最大の米国債保有国であり、それ以外のアジア諸国も外貨準備大国として米国債の大量保有者が居並んでいる。
②のリクエストは正気とは思えないが、恐らく①・③・④で脅迫することで実現しようという本音だろう。事実、日本を含めて多くの国はトランプ大統領をどれだけ懐柔できるかという姿勢が見え隠れしている。