2025年4月16日(水)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2025年4月11日

 4月2日に発表されて以来、株式市場をはじめ世界の経済と政治を混乱させている「トランプ関税」だが、政策としての中身が分かりにくいことが混乱に拍車をかけている。

「トランプ関税」の情報によって株価が乱高下している(AP/アフロ)

 例えば、現地4月7日には「大統領は関税の実施について90日の猶予期間を設けるらしい」という情報が流れてニューヨーク(NY)市場の株価が暴騰する一幕があった。数十分後にこれはデマだということが判明すると株価は一転して急落した。

 また、8日の午前中には、「中国との交渉が進むらしい」という情報で株価が上昇。ところが午後になると「やっぱり決裂らしい」という悲観論から暴落し、この日も前日比マイナスで取引を終えている。

 その後、現地9日になると、大統領は本当に「中国以外には90日の猶予期間」を設けると発表した。債権暴落という事態を恐れてのことという解説がされている。すると市場には安心感が広がり株価は暴騰したが、一夜明けると改めて不透明感が広がり再び乱高下が続いている。

 まるで市場が「トランプ関税」の正体を探して迷走しているかのようだが、それもこれも、今回の関税問題が政策として分かりにくいことが原因だ。その深層には、一つの大きなパラドックスが横たわっている。

「グローバル経済」への憎悪

 まず、アメリカが21世紀型の先進国社会になったという事実がある。つまり、アメリカ国内には高い付加価値を生む知的な頭脳労働だけが残って、その川下にある製造プロセスは国外にどんどん流出させてきたのである。その結果、知的な生産性を発揮できる人材は大卒初任給が年収で12万ドル(1800万円)になる一方で、知的なるものに関心を持てない層は、「アメリカには居場所はない」ということになってしまう。

 実際は「居場所はない」といっても、地域に根ざしたサービス産業が雇用の受け皿にはなっている。だが、アメリカ人のカルチャーとしては、人に頭を下げることは極端に嫌う。そこで、多くのアメリカ人はサービス業に従事するのは屈辱だと思っている。サービス業の多くが低賃金で不安定ということもあるが、そもそも本質的な部分で嫌っているのだ。

 その結果として、彼らは「グローバル経済」を憎悪の対象とするし、そのようなグローバル経済を推進してきた政治家や経営者を「グローバリスト」として軽蔑している。さらに言えば、国際分業も否定しているし、低賃金や高生産性を実現して製造プロセスを担っている中国などを不公正な国として憎悪の対象としている。


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