パレスチナ自治区ガザ地区をめぐり、トランプ米大統領が提案した和平案の第1段階が発効してから、まもなく2カ月。連載『第1弾』では、停戦合意で喚起に沸いたのも束の間、ハマスによる内部粛清で恐怖に怯えたガザの様子、『第2弾』では、その粛清を巡る混乱をハマス側、トランプ米大統領側、双方の思惑を交えて探った。最終回の第3弾では、密かに発足していたハマスの新治安部隊「ラダア(Radaa)」の実態、和平交渉で求められる「武装解除」の陰で武器収集に奔走するハマスとイスラエルの思惑、そこで取り残されたガザ市民の悲痛な思いに迫る。
ハマスの新治安部隊Radaaとは 主な任務は「スパイ摘発」
実は、ハマスが支配強化と「裏切り者」摘発に本腰を入れていたのは少し前からであった。その象徴が、今年6月下旬(26日)にガザで発足したとされる、新たなハマスの特別部隊「ラダア(Radaa)」だ。この「ラダア」についてはほとんど実態が報じられていないが、その任務は「無秩序の抑制、泥棒や強盗、スパイ、道徳的および治安上の犯罪に関与した者の追跡」であると宣言されている。
一体、この「ラダア」とはどのような組織なのか。その実態を探るため、テレグラムアカウントがないか探してみたところ、設立と同時期である6月下旬に作られたアカウントを発見した。早速、ラダアのテレグラムに「参加」して、日々どのような内容が投稿されているのかフォローしていくと、ガザ内部のスパイや協力者への警告が頻繁に投稿されていることが分かる。まず、設立日にはこのような投稿がされている。
「ラダア部隊の結成 — 現地での犯罪集団追跡のため。我々”ラダア”は、抵抗の治安に属する我々の専従現地部隊の公式任務開始をここに発表する。我々は、尊敬する我が国民に対し、現地部隊への全面的な協力を強く要請する。犯罪者をかくまうことなく、この国家的任務の成功に貢献してほしい」
そして、設立発表からわずか数日後(2025年6月28日)、ラダア部隊は、ヤセル・アブ・シャバブ(Yasser Abu Shabab)氏率いる民兵組織による暴動を鎮圧するため、緊急介入作戦を実施したと発表した。このアブ・シャバブ氏こそ、ハマスの強権支配に反対してきた人物だ。ラファやエジプトのシナイ半島との国境地帯を拠点に活動し、麻薬流通などにも関与していたとされる。
戦時下でハマス統治の空白が生じるにつれて徐々に民兵組織として勢力を増してゆき、イスラエル側から武器供与されていた可能性も報じられている。アブ・シャバブ氏側は、武器の受け取りを否定した上で「我々の目標はハマスからパレスチナ人を守ることだ」と主張する。
ハマスは停戦合意以前から、このアブ・シャバブ氏率いる民兵組織への攻撃の手を強めていたことが、ラダアのテレグラム上からも浮かび上がる。これら一連の「治安維持作戦」が一気に本格化したのが、トランプ和平案の停戦合意後というわけだ。イスラエル軍が部分的に撤退し始めると、ハマスは地上に出てその支配強化に乗り出した。「裏切り者には容赦せず攻撃の手が及ぶ」
――ラダアのテレグラムには恐怖の通告が頻繁に投下されてゆく。
<@ラダア:テレグラムより引用>
「北から南まで、この瞬間もラダアの手が裏切りと協力の巣を打ち続けている(10月11日)」
「ガザ各地区で大規模な治安作戦を実施し、多数の協力者や法を逸脱した要員の逮捕に至った。国内戦線の安全を乱す者に対しては鉄の拳による打撃が加えられるだろう(10月14日)」
ハマスがガザにおける支配力を(イスラエル軍の去った束の間の隙に)着々と高めようとしている様子が窺える。
