2025年12月14日(日)

WEDGE REPORT

2025年12月1日

 パレスチナ自治区ガザ地区をめぐり、トランプ米大統領が提案した和平案の第1段階が発効してから、まもなく2カ月が経つ。しかし、イスラエル側は停戦合意違反があったなどとして散発的に攻撃を継続、「イスラエルへの脅威を根絶するため強力に行動する」と主張する一方、ハマスは依然として武装解除に難色を示す。

 そんななか、トランプ米政権が主導するパレスチナ自治区ガザの和平案を支持する決議が国連安全保障理事会で採択され、ガザへの「国際安定化部隊(ISF)」の派遣などが認められた。しかし、イスラエルのネタニヤフ政権とハマスは決議に反発、計画実現は容易ではなく今後も曲折が必至な状態だ。

 ここでは3回に渡って、停戦合意「第一段階」後、実は現地で何が起きていたのかを、ハマスによる内部粛清で恐怖に怯えたガザ市民の本音、粛清を巡る水面下でのトランプ米政権・ハマス双方の混乱を交え報告する。そして、密かに発足していたハマスの新治安部隊「ラダア(Radaa)」の実態、国際社会が求める「武装解除」の陰で武器収集に奔走するハマスとイスラエルの思惑、そこで取り残されたガザ市民の悲痛な思いに迫る。

11月28日金曜日、イスラエル軍の空軍と地上軍の攻撃によってガザ市が破壊される中、避難民となったパレスチナ人たちがテントの横の火のそばに立っている(AP Photo/Abdel Kareem Hana/AFLO)

注目されたトランプ和平案 
その陰で「パレスチナ内部の戦争が始まった」
世界が和平を語るその時、ガザでは処刑の銃声が響いた

 10月初旬、イスラエルとイスラム組織ハマスが停戦第1段階に合意したとの一報が流れると、ガザ市民らは歓喜に沸いた。「これでようやく戦争が終わる」と多くの人々が感じたからだ。筆者が取材を重ねてきた複数のガザ市民も、「ようやく戦争が終わった」「ガザに平穏が戻ってくる」と一様に安堵の声をあげていた。しかし、その束の間の「安堵」はまもなくして怒りと失望へと変わった。

「イスラエルとの戦争は終わった。しかし、今度はパレスチナ内部の戦争が始まってしまった」

――市民の間ではそんな言葉が交わされ始めた。

「パレスチナ内部の戦争」――市民がそう表現したガザの内情は、すぐに世界にも明るみに出ることになった。武装したハマスの戦闘員らが街頭に出てきて、「治安維持」の名の下で銃を携え公然と活動を開始したのだ。2年間に及ぶ戦争で弱体化したハマスの統治力を再び誇示し、敵対勢力を取り締まる名目で支配権を維持しようとしているのではともみられている。

 その時、ガザ内部から聞こえてきたのはイスラエルに対する怒りだけでなく、ガザを統治するハマスへの失望と憤りだった。

 ガザ市民の間では、“#ハマスの卑劣さ”というハッシュタグがSNS上で次々に拡散され、イスラエル軍が去った後にハマスが現れて公開処刑を始めたことを非難する投稿には、多くのコメントがついた。それらは、ハマスへの憤りに溢れていた。

「ハマスに対する革命こそが解決策だ」

「ハマスの民兵どもに神の裁きを!」

「ハマスはガザ市民に少しも支援していない。彼らはガザの子どもへの支援物資を盗み、それを高値で売りさばき、その金でカタールのホテルに住む幹部たちに給与を払っている。ハマスの行いを見よ。彼らはイスラエルではなくムスリムさえ殺す。——堕落したハマスに滅びを」

 こうした投稿が拡散した背景には、停戦合意発効後まもなくして街頭で公開処刑が行われ、残虐な粛清映像が出回ったことがある。「イスラエルとの協力」や「裏切り・スパイ行為」に及んだとして、敵対勢力(地元の有力氏族)の取り締まりに乗り出したハマス。通信アプリ「テレグラム」には、路上に膝をついた男性らが覆面姿の戦闘員らにより背後から射殺される動画がハマス系メディアにより投稿され、街の空気は再び緊張に包まれた。


新着記事

»もっと見る