ドグムシュ一家の非難声明が拡散
国際社会だけでなくガザ内部からも非難
最も暴力的な内紛となったのは、ガザ市で起きた、ハマスの治安部隊と有力氏族ドゥグムシュ一族の衝突だった。覆面姿のハマス戦闘員ら300人以上の部隊が、ドゥグムシュ一族の住宅地区に突入。双方で約30人の死者を出す激しい銃撃戦となり、住民らはパニック状態で逃げ出したという。
ドゥグムシュ家はガザで最大の一族とも言われており、長年に渡ってハマスと緊張関係にあった。少なくとも停戦合意後、イスラエル軍が部分的に撤退するなか、衰退したハマスが治安の空白を埋めるべく、秩序回復を名目に再びその権力を誇示しようと、対立する氏族への活動を本格化させたと見られている。
ドゥグムシュ一族がSNS上で発表したアラビア語の声明には、こう書かれている。
「過去数日間、ドグムシュ家はイスラエル占領軍による残虐な攻撃を受け、家々がその住民ごと破壊・爆破・倒壊され、多くの息子たちが殉教し、多数の負傷者と行方不明者が出ました。(中略)
しかし、この甚大な代償を払ったにもかかわらず、私たちは驚くべきことに、我々の無実の息子たちを標的とする、殺害・恐怖・拷問・家屋焼き討ちを伴う痛ましい内部攻撃キャンペーンが発生したことを知りました。それは正当な理由もなく、現実とは無関係な口実のもとに行われています。
今回の事件における一部の逸脱行為は、10人にも満たないごく少数の個人によるものであり、それらは我々の価値観・倫理・宗教・祖国の原則に反するものであって、ドグムシュ家全体を一切代表するものではないことを名言します」
声明では、一部の人間に逸脱行為が会ったことは認めつつ、それはごく少数であるとし、この2年に渡るイスラエルとの戦争において一族内でのべ600人以上の犠牲者が出たと主張。「今日起きていることは、あらゆる形の協力や裏切りを拒絶してきた不屈の家族に対する恐るべき犯罪です」と結ぶ。つまり、イスラエル側からの「協力」要請を一貫して拒絶して多くの殉教者を出してきたにも関わらず、ハマスから「スパイ」や「裏切り行為」などを口実に無実の家族までもが殺害されたとして、非難の声明を出したのだ。
ハマス側は、ハマスの戦闘員が先に襲撃されたので反撃に出たと主張する一方、ドゥグムシュ家側は病院だった建物に一族が避難していたところ、ハマスの部隊が現れて一族を追い出し、新たな拠点を設けようとしたとして、双方の言い分は完全に食い違う。
両親共にハマス支持の家庭に生まれ、ハマスの教育を受け熱心にそのイデオロギーを信じてきた30代の男性はこう明かす。
「ハマスは粛清を行うのに、ガザの若者を300ドル程度で雇ったと聞いています。既に幹部など多くの重要な戦闘員を失ったハマスですが、水面下でリクルート活動を行い、経済的に困窮した若者たちを集めているのが実態です。若者らは自分たちが何をしているのか良く分からないままに、ただハマスの指示に従って残虐な行為に及んでいるのです」
ハマスのイデオロギーに共鳴して「抵抗」の精神で武装するのではなく、戦時中の貧困により困窮した若者たちが、金銭欲しさに残虐な行為に加担する――そういった証言は、複数のガザ市民から実は耳にしてきた。多くの訓練された戦闘員を既に失っているハマスにとって、もはや「戦力」になりそうな人手をかき集めることが喫緊の課題なのか。一方で、その動きは、停戦交渉の第二段階で目指されている「ハマスの武装解除」という目標に、極めて逆行しているようにも思える。
