2025年12月14日(日)

WEDGE REPORT

2025年12月1日

内部で始まってしまった流血の混乱

「ハマスはガザの統治から退く気などない」

 そういった声は、ハマスの実態を最も良く知るガザ市民から幾度となく訴えられてきた言葉だ。

 停戦合意で安堵したのも束の間、内部で始まってしまった流血の混乱――市民からは罪を犯していない女性までもが殺害された、とハマスを糾弾する声も上がった。少なくとも、具体的にどのような罪を犯したのか、捜査や裁判などの正式な司法手続きも経ないまま残虐な形で公開処刑や粛清は行われたとみられており、国際社会や人権団からは「ガザで起きているパレスチナ人同士の暴力の激化を強く非難する」などと非難の声が上がった。とりわけ、ガザ内部からの声は痛切だった。

「何百人もの“ハマスの銃弾で殺された犠牲者たち”を、誰がどうやって裁いたのか説明してください。ハマスは”裁判官”でも”判事”でもなく、被告席に座る側です」

「18年間(ハマス統治以降)ずっと言っているけど、ハマスが現れてから、ガザが“安全で平穏”だった日なんか1日もありません。神よ、どうか私たちをこの連中から救ってください」

 イスラエルへの憤りのみならず、内部粛清を正当化するハマスへの失望。だが、このような現場で渦巻く市民の声が世界に伝わることは少ない。

 妻と3人の子供を連れて転々と避難生活を送ってきたガザの男性は、筆者の取材にこう憤りをあらわにした。

「ようやく停戦したと安堵の気持ちで一杯になった途端に、今度は覆面姿のハマス戦闘員が地上に出てきて対立する一族らを狙って次々に襲撃を始めたのです。ガザの人々は再び恐怖に襲われています。ハマスのこの行為は、停戦交渉の最中で全くの逆効果でしかありません、一体、ハマスは何を考えているんだという憤りでいっぱいです」

 2年以上に及ぶ激しい戦争のなか、多くのガザ市民が今強く望むのは、もはや「戦争への勝利」でも「流血の混乱」でもない。ただ家族が無事に暮らし、子供達にまともな教育を与えられる環境であり、缶詰ではなく肉や卵、温かいスープを口に出来る暮らしを渇望している。

 トランプ氏主導の和平交渉「第2段階」は難航し、世界の視線は次第に遠ざかっていく。

 自分たちの存在はまた忘れられていくのか――厳しい冬が訪れる現地でガザ市民らは身も心も怯えている。一刻も早い和平交渉が急がれるなか、ハマスの停戦合意違反を口実に、イスラエル側は依然として散発的な攻撃を繰り返し、未だ多数の市民が犠牲になる。淡々と伝えられるその犠牲者の数は「単なる数字ではない」――悲痛の声を上げ続けるガザ市民の思いが、停戦交渉のテーブルにつくトップたちの耳に届くのだろうか。

 つづく。

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