先年、某ハウスメーカー関係者の少人数の集まりに加わる機会があった。話題は木造住宅。メーカーの社員たちは建築の最前線にいるのだが、口々に木造建築を増やす効用を述べた。そして、必要な木材をいかに調達し品質を確認しているかという点を強調した。
そこに筆者は「木造が増えれば増えるほど、日本の山がはげていくことを知っていますか」と問いかけた。当然ながら、その場にしらけた空気が流れたのである。
何も木造推進に反対しているのではない。ただ、参加者があまりにも林業や木材産業の現実について知らなかったので一石を投じたかったのだ。今回はその点を説明したい。
関西万博の目玉も世界最大級の木造建築物
ただその前に、日本および世界的な木造化推進の流れを確認しておこう。
木造建築ブームは、住宅よりもオフィスや倉庫、店舗など非住宅系建築の分野で急速に広がっている。実際に木造ビルディングの建築も次々と建ちだした。完全な木造でなくても鉄骨や鉄筋コンクリートと組み合わせたハイブリッド建築も増えてきた。
そんな地上6階建て以上の木造ビルは、都内だけで20棟をゆうに超えている。昨年からは東京・日本橋には地上18階建て、高さ84メートルの「日本一の高層木造賃貸オフィスビル」(建築主/三井不動産)の建設工事も始まっている。
また関西万博の目玉でもある直径675メートル、周囲2キロ、幅30メートルの巨大リングは、世界最大級の木造建造物であることを売り物にしている。
なぜ、木造を推進するのか。大きな理由に挙げられるのは、樹木は大気中の二酸化炭素を吸収して炭素を木材として固定することだ。木材を建築物として使用すれば炭素固定を続ける。それが気候変動対策としての脱炭素に貢献すると強調される。だから木造建築は「街の森」と表現されたりもするのだ。