2025年4月9日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年4月3日

 ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は、トランプはソフトパワーを理解せず、米国にとり今後4年は厳しい試練が続くと2025年3月8日付のフィナンシャル・タイムズ紙で述べている。

(peterspiro/gettyimages・ロイター/アフロ)

 権力とは、望む結果を得るために他者に影響を与える能力のことで、それは武力や金銭だけでなく、魅力を通じても達成される。この魅力、つまり「ソフトパワー」だけでは十分ではないので、指導者はハードパワーに誘惑される。

 ある国のソフトパワーは、その文化、価値観、政策が他国から正当なものと見なされることによって成り立つ。トランプは、ソフトパワーを理解していない。ニューヨークの不動産業界の経歴は、彼に「強制」と「取引」に限られた極めて歪な権力観を植え付けた。

 魅力は受け手の認識によって決まり、国によっても、また国内のグループごとに異なる。中国がハードパワーを発展させる中で、指導者は、それをソフトパワーと組み合わせることに気づいた。これが「スマートパワー」戦略だ。

 胡錦濤は、07年の党大会で、ソフトパワーの強化を唱え、習近平も踏襲した。しかし、国のソフトパワーの多くは政府ではなく、市民社会から生まれる。政府の宣伝ではソフトパワーを生み出せない。

 中国のソフトパワー戦略は、普遍的な共産主義の宣伝ではなく、取引を重視する(例えば一帯一路)。米国のソフトパワーも一部は取引に依存するが、自由主義的価値観に根ざしている。しかし、最近のトランプのゼレンスキーに対する圧力や先月のミュンヘン安保会議でのバンス演説は欧州等を心配させた。

 トランプの第一期中に米国の魅力は低下し、バイデン政権である程度回復した。二期目には再び低下が予想される。しかし、米国には回復力と改革能力がある。

 1960 年代には、人種差別への抗議や反戦デモ、暗殺が起きた。しかし、一連の改革が議会を通過し、フォードの誠実さ、カーターの人権政策、レーガンの楽観主義が、米国のソフトパワーの回復に貢献した。多くのソフトパワーは政治に関係なく人々を惹きつける。企業、大学、財団、教会、抗議運動などがそれぞれ独自のソフトパワーを発展させる。

 トランプは、民主主義を弱体化させ、制度を破壊している。しかし、米国の民主主義を完全に見限るべきではない理由もある。

 裁判所は遅いが、依然として機能している。トランプが中間選挙で敗け、抑制と均衡が回復する可能性はある。とはいえ、米国の民主主義が完全に健全であるとは言えない。トランプやマスクが支配するSNSは、分断を助長し、AIの発展により人々は陰謀論者の影響を受け易くなっている。


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