深夜ドラマは珠玉の短編である。民放の無料配信サイトのTVerのドラマ部門のランキングでは、ゴールデンタイム帯のドラマの数々をしのぐこともある。Netflixに配信して制作費用でははるかに及ばない作品群とも人気を張り合っている作品もある。
手塚治虫の〝貸出禁止本〟を実写化
『アポロの歌』(TBS系列、毎日放送制作)は、主演が髙石あかりと佐藤勝利。髙石はすでに、朝の連続テレビ小説の2025年度下期放送予定『ばけばけ』のヒロインにおいて、小泉八雲の妻セツをモデルとしたヒロインの起用が決まっている。
高校生の殺し屋役に扮した『ベイビーわるきゅーれ』シリーズで注目を集めた、髙石はいまや次世代のスターの先頭に立っている。この連載「田部康喜のTV読本」でも、従来の美貌を誇るスターとは異なる「ファニーフェイス」の女優たちのひとりとして紹介した。
『アポロの歌』は、手塚治虫が1970年4月から11月にかけて「週刊少年キング」に連載した、同名の漫画が原作である。医師資格を持っていた手塚らしい、生殖や「クローン」技術などの技術を織り込んだ未来を舞台としている。発刊当時は、過激ともいえる性表現が問題となって、一部の図書館では貸出禁止本に指定された。
大学生の近石昭吾(佐藤勝利)は、バーで働く幼馴染の渡ひろみ(髙石あかり)とささいなけんかから、追いかけてきたひとみを押し倒すような形となって、ひろみは車道に飛び出してクルマにひかれて死ぬ。悩み苦しむ昭吾の頭のなかに、次のような言葉が幾度も繰り返して聞こえてくる。
「何度も生まれ変わって、そして、何度も死ぬ。さらに生き返るが再び死ぬ」
そして、砂漠の中をあてもなく歩いていく自分の姿も浮かんでくる。
ひろみは、昭吾に将来を語っていた。「いつか『Σ(しぐま)』という歌手になって活躍している夢をみるの」。
昭吾が目を開けて、街にでると、そこには真っ赤な衣装を身にまとった、ひろみが「Σ(しぐま)」という歌手となって、プロモーションビデオに登場しているのを見るのだった。
そして、スマートフォンがなって「なぜ早くこないんだ! Σの取材なんだぞ」と、雑誌編集者の先輩から呼び出される。
取材の場所にいくと、Σはまさにひろみ(髙石)だった。ふたりは徐々に距離を縮めていく。そして、Σはついに郊外の昭吾の実家に訪れる。ふたりは、夕日が落ちる海岸で寝そべり、その愛を確認するように軽く口づけをするのである。
そして、昭吾が目を覚ますと隣にいたΣの姿がない。海岸をさ迷うようにして歩いていると、出会ったのは、母親の順子(河井青葉)だった。彼女は地雷探知機のような装置を手にして海岸の砂を探っている。昭吾をみると「あなた人間ね!」と叫んで、姿を消す。
昭吾の人生は転換したのである。