2025年12月6日(土)

田部康喜のTV読本

2025年4月5日

寝る前にほっと一息

 『バニラな毎日』(NHKよるドラ、1月20日~3月13日)は、パティシエ役の蓮佛美沙子が自分の店を開店したものの、資金繰りに行き詰まって閉店した挫折から立ち直る物語である。

「20年にひとりの女優」と言われた蓮佛美沙子の演技力が光る(公式ホームページより)

 大林亘彦監督が「20年にひとりの女優」と、演技力に高い評価を与えた理由が筆者もようやく理解できた作品である。視聴率と作品の評価が低い、連続テレビ小説『おむすび』の代わりに本作があってもよかった。

 白井葵(蓮佛美沙子)は、経営していた洋菓子店の経営に行き詰まる。店舗の使用料や設備投資など、約600万円の借金が残った。菓子店やパン屋のバイトを掛け持ちしながら、借金の返済の準備を進めている。

 常連客だった、料理研究家の佐渡谷真奈美(永作博美)が、白井が働いているバイト先に押しかけてきて、ある提案をする。白井の店を使って、たったひとりを相手にした菓子教室をしないか、というモノだった。

菓子教室を持ちかけた佐渡谷真奈美(永作博美)も、苦い過去を持つ(公式ホームページより)

 借金の返済策のひとつとして、白井は受け入れる。生徒の一人ひとりは、心理療法を受けていて、菓子作りがその役に立つというのである。抱えている問題は、さまざま。そして、作品の魅力は、生徒が作り上げる菓子が毎回異なることである。

 人気のロックミュージシャンの秋山静(木戸大聖)は、作品づくりの壁につきあたっている。彼はチョコレート菓子の「オペラ」作りにとりくむ。木戸は、Netflixが世界配信した『Fast Love 初恋』のなかで、主人公の佐藤健の少年時代を演じて注目された。

 東大を卒業して、外資系コンサルタントとして活躍していた順子(土居志央梨)が作ったのはフルーツタルトである。土居は、連続テレビ小説『虎に翼』のなかでヒロインの同級生の弁護士役だった。

 障害をもつ結杏(和合由依)は、過保護の母(中島ひろ子)から自立を目指してパティシエを目指している。白井(蓮佛)と佐渡谷(永作)が発案して、結杏と母と一緒に自宅で菓子を作るなかで、母は結杏の自立心を認めていくのだった。

 佐渡谷(永作)にも渡仏しながら、フランス人の婚約者もできたのに挫折して帰国した苦い思い出があった。白井(蓮佛)とともに、お菓子教室をするなかで、菓子が人々に勇気を与えることを再認識して、まだ結婚していなかったかつての婚約者と結ばれる。

 深夜帯のドラマは、寝る前にほっと一息いれるのにもいい。『バニラな毎日』は、そんなドラマの傑作である。


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