ドナルド・トランプ米大統領(以下、初出以外敬称および官職名略)は、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて、貿易相手国に関税を課してきたが、米連邦最高裁判所は2月20日(以下、現地時間)、関税の権限は同法には含まれず、トランプ関税は「違憲」であるという判決を下した。
昨年4月2日にホワイトハウスのローズガーデンで、トランプは同盟国および友好国を問わず、貿易相手国に対する関税措置を発表すると、関税を交渉とディール(取引)の武器にして、日本や欧州をはじめとする国々に圧力をかけて譲歩を引き出してきた。彼は、自らを「関税男(タリフマン)」と呼んで短期的な成果を誇ったが、「策士策に溺れた」。
敗訴の判決が出る前日、トランプは南部ジョージア州ロームの鉄鋼会社を訪問し、トランプ関税によって米国の鉄鋼業が復活したと強調していた。11月3日の中間選挙においてジョージア州では、民主党の現職ジョン・オソフ上院議員が再選を目指す。同州は民主党にとって議席を守らなければならない重点州の1つである。
一方、トランプはジョージア州では日米投資案件の第1号である人工ダイヤモンドの製造を行い、雇用創出をアピールして、民主党から上院の議席を奪いたいところである。
本稿では、まず連邦最高裁判所の判決の意義について考え、次にトランプ関税「違憲」とインフレの中間選挙への影響について説明する。そのうえで、今後、日本はトランプに対してどのような交渉を行うべきか述べていくことにする。
期待はずれの「MAGA判事」
現在、米連邦最高裁判所は保守派6人、リベラル派3人の判事から構成されている。党派別で判決が下されていれば「6対3」で保守派が勝利するのだが、結果は保守派のうち3人がリベラル派に加わり、「6対3」でトランプ関税「違憲」の判決が出た。
トランプは保守派6人のうち、ニール・ゴーサッチ判事(58)、ブレット・カバノー判事(61)およびエイミー・コニー・バレット判事(54)の「MAGA判事」3人を指名した。彼らは、ジョー・バイデン元大統領が指名したリベラル派のケタンジ・ブラウン・ジャクソン判事(55)を除く他の5人の判事(全員65歳以上)と比較すると、年齢が若い。トランプは、終身制の下で彼らが長期にわたって自分に「忠誠心」を示し、意のままに動くことを期待したのだろう。しかし、この期待は外れた。
3人のMAGA判事のうち、ゴーサッチとバレットはトランプ関税を違憲と判断した。2人の判事は、トランプではなく、「憲法」に忠誠心を示したのだ。そうすることによって、関税の権限を米連邦議会から奪い、「チェック・アンド・バランス(抑制と均衡)」を崩壊させたトランプ政権から、民主主義の根幹原則である三権分立(立法・行政・司法)を守り、機能させ、分権を維持した意義は大きい。
トランプは、保守系シンクタンクヘリテージ財団が作成した「プロジェクト2025」に基づいた政権運営をしてきた。同プロジェクトでは、連邦議会の力を殺ぎ、立法府を骨抜きにすることを提言している。故に、今回の判決は立法府の権限を守って、司法の存在を際立たせた。
トランプはホワイトハウスの記者団から、ゴーサッチとバレットを指名したことを後悔しているのか尋ねられると、「後悔をしているか否か語りたくない」と答えたが、自身のSNS(交流サイト)で、3人のうちトランプ関税無効の判断に反対したカバノーのみに感謝の意を述べた。米連邦最高裁判所において、トランプの意のままに動くMAGA判事はカバノー1人に減った。
