2026年に入ると、早々にドナルド・トランプ米大統領(以下、初出以外敬称および官職名略)は、ベネズエラに対して地上作戦を実施して、ニコラス・マドゥーロ大統領夫妻を拘束し、強制的に彼らを米国に移送して、ニューヨークで裁判を行うこととした。今回の地上作戦は、MAGA(米国を再び偉大にする運動に賛同する人々)が同調したトランプの政策の柱――「アメリカファースト」に相反する行為であることも確かだ。なぜ、トランプはアメリカファーストを“捨てた”のか。その背景には何が隠されているのか――。
傀儡政権
トランプにはベネズエラに地上作戦を実施しても、共和党支持者から支持を得られるという読みがあったのだろう。加えて、実施後の「統治」の仕方に関しても過去の政権の経験から学んでいると言えよう。
世論調査で定評がある米クイニピアック大学(東部コネチカット州)の全国世論調査(2025年12月11~15日実施)によれば、米軍によるベネスエラ国内における軍事力行使に関して、全体では25%が「賛成」、63%が「反対」、12%が「分からない」と回答したが、共和党支持者に限ってみれば、52%が「賛成」、33%が「反対」、15%が「分からない」と答えた。
共和党支持者は過半数が軍事力行使を支持した。地上戦が成功を収め、(米国への麻薬密輸の主犯格である)マドゥーロ大統領を拘束し、ベネズエラの石油権益獲得の再獲得を確保できれば、「ひび」が入ったMAGAを元のように結束させることができると考えた節がある。
トランプはシナリオ通り、ベネズエラ国内における地上作成が成功を収めると、南部フロリダ州の邸宅「マーラ・ア・ラーゴ」で記者会見を開き、「統治する(govern)」や「占領する(occupy)」という言葉を用いずに、今後、米国がベネズエラを「運営する(run)」と語った。“運営”には、トランプの意のままになる傀儡政権を作り、ベネズエラをコントロールするという意味が込められている。
一方、「統治する」と「占領する」を用いれば、MAGAから「アメリカファースト(米国第一主義)」ではないと批判されるからである。
米国は2000年代に入り、軍事介入を繰り返してきたが、軍事作戦が成功しても、政権交代や統治に失敗するケースが多々見られた。例えば、イラクではフセイン政権が倒れると、国内に混乱が生じて、宗教対立が先鋭化し、過激派組織ISを生むことになった。リビアではカダフィ政権崩壊後、内戦が起こり、アフガニスタンでは、結局タリバンの復活を許した。
余談だが、筆者は首都ワシントンにあるアメリカン大学異文化マネジメントの客員研究員をしていた時、米軍に招かれて、西部アリゾナ州で開催された「文化サミット」で、4軍(陸軍、海軍、空軍、海兵隊)を対象にプレゼンテーションを行ったことがある。
当時、陸軍の幹部は、アフガニスタンでは米軍が部族から情報をとれないので、異文化コミュニケーションの知識やスキルが必要であると考えていた。統治や占領には圧倒的な軍事力というハードパワーはなく、異文化コミュニケーションのソフトパワーが不可欠なのだ。
トランプが意図的に“運営”を使用し、デルシー・ロドリゲス副大統領を暫定大統領に据えて、傀儡政権の樹立を選んだ理由には、米軍のイラク侵攻後、政府や軍の関係者を追放し、統治に失敗した教訓もあるのかもしれない。
トランプ政権は、混乱や内戦を回避するために、マドゥーロ政権の統治機構をそのまま残し、“頭”のみを代えたのだ。ノーベル平和賞受賞者で反体制派指導者のマリア・コリーナ・マチャド氏や、2024年の大統領選挙で野党統一候補であったエドムンド・ゴンザレス氏を選択しなかった一因はここにあるのだろう。
米有力紙ニューヨーク・タイムズ(電子版1月6日付)は、マルコ・ルビオ国務長官兼大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を含めた政府高官が、もし米国が反体制派指導者を支持すると、ベネズエラはさらに不安定化し、国内に強靭な軍隊のプレゼンスが必要になると議論し、トランプを説得したと報じた。トランプの焦点は石油の権益獲得にあり、ベネズエラの民主主義や自由主義の促進ではないのだ。たとえ独裁政権であっても、米石油企業の石油アクセスの保証がなされればよいのである。
同床異夢
トランプは、今回の地上作戦の狙いについて、石油権益と明言した。反米のベネズエラ政府によって、同国に進出していた米石油企業の資産が「盗まれた」と訴え、石油インフラの修復を行うとも述べた。その裏には、トランプと米石油企業の癒着があり、利益の一部がトランプの政治団体に献金として流れ、最終的には彼とトランプ一族の繁栄につながるという「金の循環」があるとみてよい。
一方、ベネズエラ政策の立案者と言われ、同国の政権交代を強く訴えてきた強硬派のルビオは、ベネズエラの先に見ているものがある――キューバ政府の転覆だ。
「ウクライナとロシアの和平交渉『タンゴは2人で踊るもの』」で紹介したが、ルビオはキューバのバティスタ独裁政権から南部フロリダ州マイアミに逃れた移民の両親を持つ。ルビオはバーテンダーの父親とホテルの掃除係の母親の下で育った。ルビオが独裁政権打倒と民主主義および自由主義の擁護を信念としているのは、両親の影響が強いと言える。
キューバに原油を輸出しているベネズエラ政権を転覆させ、キューバの政権に多大なダメージを与えるという計算がルビオにあったことは間違いない。
ベネズエラへの地上作戦に関して、「金儲け」と「領土拡大」の双方の意欲が強いトランプと、キューバ政権の転覆を図るルビオ――2人は2本の異なったレール(two tracks)を走っている。「同床異夢」というところだ。
トランプは、次の軍事攻撃の標的にコカインを生産し、“米国に密輸”しているコロンビアのペトロ政権を挙げている。キューバ政権転覆を狙うルビオは、イデオロギーよりも「実利」を最優先するトランプを説得しなければならないだろう。キューバの観光産業や不動産を“餌”に、トランプ一族に実利がもたらされるというメリットを強調するという手法もある。
今回のベネズエラ地上作戦に関する批判に、ルビオは三大ネットワークで「米軍はたった2時間、地上にいただけだ」「米国はベネズエラと戦争をしていない。麻薬密輸業者と戦争をしているのだ」「ベネズエラはイラクやリビアとは違う」などと反論した。
今後、ベネズエラの国家“運営”が機能しなかった場合、近い将来、大統領の職を狙うルビオにとってマイナス要因となることは間違いない。11月3日の中間選挙や、2028年大統領選挙で共和党候補にもプラスに働くことはない。
