2026年3月15日(日)

Wedge REPORT

2026年3月15日

 「ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。」(2021年)など、ドキュメンタリー映画で知られる島田陽磨監督の新作「父と家族とわたしと」が3月14日に封切られる。歴史のうねりにかき消される個人に目を向けてきた監督から話を聞いた。

(C) Nihon Denpa News Co.,LTD.

 ウクライナ、ガザ、ベネズエラ、イランと、瓦礫の光景に日々慣らされる中、こうした戦いが人の心にどう影響するのかを、考えさせる作品だ。戦争の「病(やまい)」は兵隊だけでなく、その妻、子、孫、ひ孫の代まで蝕む。作品はそんな現実を三家族からあぶり出している。

「赤ちゃんの、胸を……踏み殺しました」

 冒頭、元日本兵たち、どこにでもいそうな老いた男たちの言葉が数珠繋ぎに重なる。

 「捕虜の惨殺といいますか、一人ずつ首を切るという儀式といいますか、これがあったわけです」「肝試しをやってみろということで、大隊長が刀をふぁっと抜いたんだ。少尉が連隊長に一礼して、『ではただいまから始めます』。そして首を切る。すると、シューッと血が飛ぶ。累々たる死体が」(引用は一部略、以下同)

 「青くなっていた、俺はよ。それ、やれってわけだ」「とにかくぶざまなことはできない」「ここでバシッとやったことは、なんだか俺、すばらしいこと、偉いことをした、一般に認められたことをしたような、錯覚を起こしてしまったわけだ」

 「それからというものは、もう」

 画面は戦時中の古いニュース映像に切り替わる。戦場、原爆、玉音放送がつづき、うなだれる復員兵が映り、再び元兵士たちが現れる。その一人、丸顔の人の良さそうな男性が絞り出すように言う。「赤ちゃんの、胸を……踏み殺しました」

 「ただ思い出しますよね。銃で殺したのも覚えてますし、槍で突き刺したのも覚えてますし」「私も被害者の亡霊に苦しめられてんじゃないかと。それだったらもう呪い殺されてもしょうがないと思ったんですけど」「脳みそってのは変なもんでね。いまから五十年も前のことが、パーッと思い起こされるのね」

 これから何が始まるのだろう。息の詰まる場面の連続はパッと、現代の飲み屋に切り替わる。中年女性二人がジョッキ片手に仲良さげに話をしている。

 島田作品には飲み会や家族の食卓がよく出てくる。「生活感が出るっていう、結構安易な発想で撮ることが多いですね」と言うが、この場面で見る側はほっとして、現実に引き戻される。


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