2026年3月15日(日)

Wedge REPORT

2026年3月15日

 女性は映画の主人公の一人で、飲むほどに本音を語っていく。「父親が家に帰ってきて、もう私の髪の毛、引きずってさ。鳥取弁でね、知恵が足らないって、『だらず』って言い方があるんですよ。『だらず、お前は〜』ってすごい責められるんだけど」「自分にとっては普通っていうか、当たり前の話だから」

暴君の父が壊した家族

 映画は暴君の父が壊した家族の過去を掘り下げていく。小学校時代のアルバムで、彼女は自分の顔だけを黒く塗りつぶしていた。いつも放心したような顔の彼女がようやく笑えるようになったのは、父が自殺を遂げた中学生のころだった。

 アニメ「巨人の星」の主人公の父、星一徹。進藤英太郎が雷親父を演じた人気ドラマ「おやじ太鼓」。あげればキリがない。ちゃぶ台返しや妻子への暴力は、長く昭和の風景と受けとめられてきた。

 「原因を突き詰めることがなかったんですね。昭和のオヤジはキレやすいと、サブカルチャーでギャグやネタにされ、社会の底に沈殿しつづけてきたんです。戦後80年、それと向き合わずに走りつづけたのがいまの日本、という気がします」と監督は言う。

 身内や村の人によれば、女性の父親は戦争に行くまでは「本当にいい人」だった。

 1922年、鳥取県散岐村(さぬきそん)の農家に生まれ、尋常小学校を卒業後、軍需工場で施盤工として働く。21歳で海軍に配属され、44年に千島列島の松輪島(まつわとう)に派遣される。

 島で父親が何をしたかはわからない。当時の記録によれば、極寒の中、兵士は昆布を齧(かじ)り雪を食べ飢えを凌いだという。敗戦後、ソ連兵に島を囲まれた肉弾戦はひどいものだった。父はその中を生き抜き捕虜となり、シベリアに抑留され、帰国できたのは敗戦の3年後だった。

 戦場の恐怖だけが人を変えるのではない。カメラは「戦争神経症」を患った兵士を集めた病院に向かう。カルテにこんな証言が残されている。

 「一九三六年九月二十六日、二十六歳、六人ばかりの志那人を殺したが、そのなか十二歳の子供をつき殺しかわいそうだなと思ったこと、いつまでも頭にこびりつき、病変の起こる前には何だかそれが出てくるような気がする」

兵士たちの苦しい日々が記されている(C) Nihon Denpa News Co.,LTD.

 映画は文字で統計を示す。「ベトナム戦争では帰還兵の2〜5割がPTSDを抱えていたと言われる」「イラク、アフガニスタン戦争では米兵の戦死者約7千人に対し、帰還後の自殺者は4倍の3万人超に上る」「日本でもイラクに派遣された自衛官のうち54名が帰国後に自殺している」


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