ガザ地区で約20年ぶりに実施され、その結果が注目されたパレスチナ地方議会選挙。蓋を開けてみれば、ガザでの投票率は23%と大きく低迷、「驚くほど低い投票率」などと国際メディアでは報じられ、専門家からだけでなくパレスチナ内部からも驚きの声が上がった(前編記事参照『「スローガンはもういらない」ガザ市民の叫び、事前報道の期待裏切る低投票率23%と自治政府の思惑』)。
この低投票率の背景には、既存組織に対するガザ市民の不満やパレスチナ自治政府が抱える正当性の危機、そして長年の内部分裂により浮き彫りとなった政治システムの崩壊がある。
限界に達したガザ市民の怒り――「勇ましいスローガンなどうんざり」
今回の選挙では事前の期待を裏切り、ガザ地区において23%という低投票率を記録した。その背景には、長年にわたりパレスチナ政治を担ってきた既存組織に対する、市民の限界に達した怒りが垣間見える。2007年以来、イスラム組織ハマスはガザのすべての自治体において自ら市長や議員を任命し、地方統治は住民に委ねられてこなかった。一方のパレスチナ自治政府も、2006年を最後に選挙を行っておらず、マフムード・アッバス議長自身も2005年以来選挙を経ていない。このような長年の内部分裂と延期され続ける選挙により、パレスチナの政治システム全体が正当性の危機に直面している。
ガザ市民からは、パレスチナ政治の担い手として対立してきた二大組織への強い憤りと落胆の声が上がっている。
ラファから避難して中部でテント暮らしを続ける男性は、こう怒りを吐き出す。
「ハマスもファタハも、どの派閥もいらない。聖人のふりをするな、どちらも自分のことしか考えていない。勇ましいスローガンなどうんざりだ、結局現実には何もしない。政治の椅子に座れば、ガザの市民のことなんて忘れる奴らだ。もういい加減にしてくれ。自治政府は給料を遅らせて人々を疲れさせ、何日も待たせた上、批判すれば給料を止める。そして、ハマスのような輩に至ってはガザを砂漠に変えた。宗教で包み隠し、国民に何年も我慢を強いて、結局この惨状と破壊だ。水没、蚊、病気、金欠、灼熱のテント地獄――私たちが望むのは家と生活が戻り、ただ人間らしく生きることだけ、本当にもううんざりだ」
既存組織への絶望とガザ内における部族への回帰
今回のガザにおける選挙は組織間の政策論争ではなく、部族や一族間の争いに近い側面があったとも指摘される。ファタハ系や複数の無所属、さらに親ハマス系と見なされる陣営が議席を分け合う形となったが、ハマスは公式の旗印の下では出馬しておらず、候補者は主に部族や職業上の同盟に基づいてグループ化されていた。
ガザ北部出身で現在は海外で治療中の男性は、「人々は武力闘争を掲げる過激な政党やイスラム主義組織に疲れ果てており、それらから完全に離れてしまっています」とした上で、「私たちのパレスチナ社会は部族・一族社会であり、政党間の競争が不在である中で、これらの部族が地方議会の議席を争うためにリストを形成していました」と明かした。さらに、投票所を警備するハマスの治安部隊がイスラエルの標的になることを恐れて市民が投票所に行くことを避けた背景もあるという。
ロンドンを拠点に中東情勢を伝える英字ニュースサイト『ザ・ニューアラブ(The New Arab)』の取材に対し、政治アナリストのムスタファ・イブラヒム氏は、投票した人々の多くも政治的な信念というよりは、一族への忠誠心や地元の部族の力学によって動かされていたと分析している。また、中東の衛星テレビ局・アルジャジーラの取材で、政治アナリストのウェサム・アフィファ氏も、「パレスチナ社会が伝統的な家族ネットワークに逆戻りしていることを示している」と語るなど、国際社会が期待するような専門知識を持つ実務家による統治への転換が見通せる状況ではなく、これらの名簿を動かしているのは主に伝統的な部族の繋がりであると指摘している。
