パレスチナ自治区のヨルダン川西岸とガザ地区の一部で2026年4月25日、地方議会選挙が実施された。ガザ地区において選挙が実施されるのは、2006年の自治評議会の選挙以来20年ぶりとなる。ガザでの投票は、過去2年間にわたるイスラエル軍との戦闘において比較的被害が限られた、中部デイルバラの1カ所のみで行われた。
開票の結果、パレスチナ自治政府の主流派組織ファタハから支持を受ける陣営が、定数15のうち最多の6議席を獲得。ガザを実効支配するイスラム組織ハマスに近いと見なされていた陣営の獲得議席は2議席にとどまった。だが、戦後の復興に向けた政治的な回復力とパレスチナの団結を示すはずだった試みは、既存組織に対する市民の幻滅を反映する結果となってしまった。
イスラエルの物資搬入制限と極限の選挙インフラ
ガザ地区・デイルバラでの選挙は、未だイスラエル軍による攻撃と厳格な物資の搬入制限が続くなか、手探りで行われた。ガザの選挙スタッフは現地で調達可能な材料を用いて選挙に必要な備品の代替品を手配した。厚手の透明なナイロンで内張りを施した手作りの木製投票箱を約100個製作し、投票用紙はガザ地区内に残存する地元の印刷所で急遽印刷されたという。
また、二重投票を防ぐために有権者の指に印をつけるインクには、昨年のポリオワクチン接種キャンペーンで余っていた青いインクが転用された。電力網が破壊され安定した電力供給が途絶えているため、日没前に開票作業を完了させる必要があったことから、投票の締め切り時間はヨルダン川西岸地区よりも2時間早い午後5時に設定されるなど、インフラが不足する状態での選挙運営となった。
蓋を開けてみれば…事前の期待と低投票率の落差
ガザで選挙が行われるのは2006年以来であり、現在39歳以下の住民にとっては初めての投票機会となった。選挙の実施が決定されると、海外のメディアはガザにおける約20年ぶりの投票機会を大々的に報じた。米紙ニューヨーク・タイムズは「自分たちの街がどのように運営されるかについて発言権を持つ、待ちに待った機会である」と伝え、中東の衛星テレビ局アルジャジーラも「パレスチナ全土の選挙管理を担う独立機関であるパレスチナ中央選挙委員会は、今回の投票を極めて重要な節目と見なしている」と期待を込めた。
しかし、蓋を開けてみればデイルバラの投票率は、わずか22.7%と低迷した。有権者約7万人のうち、実際に投票所に足を運んだのは約1万6000人にとどまった形だ。ロンドンを拠点に中東情勢を伝える英字ニュースサイト『ザ・ニューアラブ(The New Arab)』は、この結果について「ガザで約20年ぶりに行われた最初の選挙は、広範な民衆の熱狂を生むことはなかった」と報じ、「政治的な回復力と国家の団結を示すはずだった試みは、パレスチナの公的機関に対する国民の深まる幻滅を反映する結果となった」と伝えている。
パレスチナ中央選挙委員会のラミ・ハムダラ委員長は、この低投票率の要因について、イスラエルの攻撃による死者や、市外へ逃れた避難者が古い有権者名簿に記載されたままであることを主張している。しかし、現地の市民からは別の声が聞こえてくる。デイルバラで暮らす30代の女性ハブーシュさんは、憤りも混じった諦めの気持ちを吐露する。
「私はデイルバラに住んでいるので投票権を持っていますが、投票などしたくないので棄権しました。もはやハマスもファタハも、私たちには関係ありません。結局、誰も国民の利益のためになんて動いてくれないことが分かったからです。候補者の親戚以外で、一体誰が投票に行くのでしょうか?結局、利益を得るのは彼ら(候補者)だけで、国民の利益のためだなんて嘘ばかりなのです」
カイロに在住するガザからの亡命者である男性も投票率の低さに触れた上で、選挙について「結局、欧州の人々を始めとした国際社会に対して、パレスチナで選挙が行われていることをアピールするための、単なるショーに過ぎません」と痛烈に非難した。
その上で、「今回、ハマスやイスラム聖戦、ファタハといったパレスチナの全勢力が、それぞれ特定のリストを支持していました。でも、リストのどこを見ても新しい思想を生み出したり、ガザの人々を団結させて新しいリーダーシップを発揮できるような候補者や勢力は見当たりませんでした。結局のところ、これは単なる『プロセス』に過ぎなかったのです。ガザで選挙が行われているということを、国際社会に示すためのね。だから、今回のことで何かが変わるわけではないのです。ガザの人々は全般的に絶望を感じています。彼らはただ生きるための解決策を待ち望んでいます。選挙にもはや何も期待していないのです」
