2026年1月20日(火)

WEDGE REPORT

2026年1月20日

 トランプ米大統領主導のパレスチナ自治区ガザの和平計画で滞っていた「第2段階」が開始された。トランプ米大統領は15日、暫定統治機関「平和評議会」を発足させたと発表、自らが評議会のトップに就き「かつてないほど偉大で権威ある評議会だと確信している」と強調した。それに先立ち、米国のウィトコフ中東担当特使はSNSへの投稿で「非軍事化や官僚組織による統治、復興へと移行する」と表明。イスラエル側が求める最後の人質1体の返還が完了しないなか、外交的成果を前進させることに強い意欲を持つ米国が次の段階への移行を推し進めた形だ。

ガザ市のゼイトゥーン地区でイスラエルの空軍と地上軍の作戦によって破壊された建物の中で遊ぶパレスチナの少女たち(1月14日、AP/AFLO)

 だが、第2段階は更なる困難が待ち受ける。その一つが、ハマスの武装解除だ。ハマスは、和平計画の履行に全面的に取り組むとしつつも、一貫して武装解除を拒否する姿勢を示しており、交渉の行方は未だ見通せない。だが、ハマスのイデオロギーと思惑を垣間見ることが出来る文書が、実は昨年暮れに発表されている。

 昨年12月24日、世界がクリスマスムードに華やぐなか、ハマスは公式サイトを通じて突如、長文の政治文書を発表した。題名は「Our Narrative Al-Aqsa Flood: Two Years of Steadfastness and the Will for Liberation 我々のナラティブ(物語)――アル・アクサの洪水:2年間の不屈の精神と解放への意志」。

「アル・アクサの洪水」とは、2023年10月7日にハマスがイスラエルに対して開始した大規模な越境攻撃につけられた作戦名だ。

「アル・アクサの洪水は単なる軍事的出来事ではなく、栄光ある誕生の瞬間であり、欺瞞や捏造から解放された意識の出現であった。二年間のジェノサイドと不屈の闘いを経て、我々の物語は明白かつ明確になった。すなわち、消し去ることのできない人民、打ち負かすことのできない抵抗、そして忘れ去られることのない記憶である」

 文書の公表に当たり、公式サイトでハマスの越境攻撃について「栄光ある誕生の瞬間」と称えたハマス。

 42ページに渡るこの文書の内容は、単なる戦況報告ではない。戦争開始から2年以上が経過し、停戦交渉が本格化するなかで、ハマスが2023年10月7日の越境攻撃をどう位置づけ、ガザ戦争を歴史上どう世界に記憶させるか、さらには停戦後におけるハマスの存在感をどのように残そうとしているかを示す、極めて重要な包括的政治文書だ。

 停戦交渉の行方を占うためにも、42ページに渡る文書を読み解いてみた。

 ハマスの「ナラティブ(物語)」は以下8章に渡って描かれる。

 文書は冒頭、こう始まる。

「過去2年間にわたり、パレスチナの人々は、意志を打ち砕き、団結を解体し、屈服へと追い込もうとするかつてないほど凶暴な軍事作戦に直面しながら、揺るぎない忍耐と不屈の精神の叙事詩を築き上げてきた。この叙事詩の最後の行が書き終えられるその時まで、抵抗する存在としての自らのアイデンティティを守り抜いた」

 この文章から既に明らかなように、ハマスはガザの地で耐え抜いてきたパレスチナ人を「揺るぎない忍耐と不屈の精神の叙事詩」を築き上げた、いわば英雄的存在として称えている。

 全体を通して何度も強調されているのは、「2023年10月7日は突発的な事件ではなく、長年の抑圧の帰結である」という一貫した強い主張だ。ハマスは、その日を「パレスチナの歴史において画期的な日」と位置付ける。そして、この2年以上に及ぶ戦争について、「イスラエル占領との長い闘争の中のひとつの章に過ぎない」と、壮大な抵抗の物語の象徴的な出来事として位置付け、「我々の大義の歩みにおける歴史的かつ決定的段階の基盤」と表現する。

 一方で、「”無敵”とされた軍隊(=イスラエル軍)の神話が打ち砕かれ、解放への意志がいかなる軍事力よりも強いことを証明した日」との表現も文書には登場する。これは、ハマスがいかにイスラエル軍を前にして強靭であるかを誇張する、明確なプロパガンダだ。今や、市民の多くが家族や親族を失ってきた状況にあるなか、これほどまでの犠牲が出てもなお、ハマスの抵抗が「負けていない」と描き、鼓舞する。そして、「この作戦は、衝動的な行動でも感情的な冒険でもなかった。それは、希望を取り戻し、歴史の流れを正すための計算された一歩であった」と総括している。


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