働く人のこころの健康を考える際に、考慮しなければならないことがある。それは、休職が引き起こす損失は、諸外国に比して、日本がずば抜けて高額であるという事実である(Evans-Lacko & Knapp, 2016)。
日本に限って、患者(社員)には職場に復帰することに、負のインセンティブが働いてしまう。これは、必ずしも社員の責任というわけではなく、むしろ制度上の不備による。
傷病時の保障制度がこころの健康問題とミスマッチを起こし、社員の健康はかえって損なわれ、社会にとっても労働力の損失を招いているのである。その典型的な例が傷病手当金である。
傷病手当金100年史
傷病手当金とは、被保険者が業務外の病気やケガで仕事を休み、給与を受けられないときに、生活を保障するために支給される健康保険の給付金である。およそ「給与の3分の2」に相当する額が支給される。
傷病手当金にしめる精神疾患は、7万件を超え、総数に占める割合は、件数ベースで39.1%、金額ベースで43.7%となった(協会けんぽ 令和6年度の現金給付状況)。1998年が約5500件(5.1%)であったのだから、四半世紀に13倍に膨れ上がったことになる。異常な増加といわざるを得ない。
傷病手当金は、精神疾患を対象とする場合、受給者は休職を続け、制限期間を終えて、そのまま退職となるケースもある。しかし、傷病手当金は、「退職金に類似した所得補償」ではない。制度設計の原点に立ち返らなければならない。
傷病手当金は、100年の歴史を持つ制度である。1922(大正11)年の健康保険法成立を受けて、27(昭和2)年から開始された。当初から「病気やけがで働けない期間の所得補償」として設計された。当時のモデルは、工場労働者・身体労働者の外傷・急性疾患であり、短期の支給を想定していた。
