日本の高市早苗首相が「中国による台湾への攻撃は、日本にとって存亡の危機となり得る」(以下 「台湾有事発言」)と発言をした後、中国は外交的抗議に加えて複数の対抗措置を発令し、日中間の緊張を急速に高めた。この一連の動きは、台湾の視点から観察すると、2022年のナンシー・ペロシ元米下院議長(以下 ベロシ下院議長)の訪台期間中に、中国が行った外交的抗議、経済制裁、情報戦攻勢と、極めて類似している。
両岸問題や防衛報道に精通したベテランジャーナリストで、アジア・ファクトチェック・ラボの元所長である李志徳氏は「両事件とも台湾が外交上の突破口を開いたことで、中国が『外交上のレッドラインを踏まれた』と認識し、反撃措置を行った」と指摘する。
高市氏の「台湾有事発言」は、突如として発されたものではない。これは、台湾海峡を挟んで激化する中国の脅威への反応である。22年8月、中国はペロシ下院議長の訪台に抗議し、96年の直接総統選挙以来最大規模の台湾包囲軍事演習を実施した。その際、5発のミサイルが日本の沖縄周辺の排他的経済水域(EEZ)に落下している。
台湾海峡情勢は台湾と中国の問題にとどまらず、日本の国家安全保障に直接関わるものとなり、日本の政界における「台湾有事発言」への戦略的議論を加速させた。
FactLink 調査チームは、台湾および中国語圏におけるデマ情報のファクトチェックに関する長年の実務経験に基づき、台湾の視点から、中国が「外交上のレッドラインを踏まれた」として対抗措置を発動する際の台湾と日本に対する宣伝戦略およびフェイクニュース攻撃の類似点と相違点を検証した。また、日本を含むアジア同盟国が情報防衛ラインを構築するための参考となるよう、台湾が実践した経験を紹介する。
※一部の中国語のSNS発信は編集部が翻訳して掲載しています。
類似する中国の反応
中国が日本・台湾へプロパガンダを仕掛ける際には様々な組織・機関を使う。中国では24年以降、軍事演習に関するプロパガンダは人民解放軍東部戦区融媒体センターが主導している。宣伝コンテンツを制作する「中央キッチン」としての役割を果たし、センターのコンテンツは中国の国営メディア、オンラインフォーラム、SNSへ同時に転載・共有され、政府の公式発表に沿ったデマを流布させている。
高市氏の「台湾有事発言」に対し、非難の声明を挙げたのは、中国外交部、在日中国大使館、および呉江浩大使である。その中でも、駐大阪中国総領事館の薛剣総領事は25年11月8日夜、X(旧Twitter)に「斬首」をほのめかす投稿を行ったことは注目に値する。
この投稿は、即座に削除されたたものの、日中間の外交的攻防を引き起こした。在日中国外交官らも、ソーシャルメディア上で中国語・日本語の両方で攻撃的な論調を展開した。さらに、中国の公式対外宣伝を担う「中国新聞網」もX上でニュース記事やAI による風刺漫画を積極的に投稿した。
中国での政治情勢に明るい「大V」と呼ばれるインフルエンサーもこれらの投稿や主張に同調。さらに注目すべきは、SNS上での偽情報の拡散において、流通経路や手法が台湾を標的としたものと日本を標的としたもので酷似していた点だ。
例えば、高市氏の「台湾有事発言」を受けて、日台同盟関係を分断しようとする意図で、「高市氏が議員在任中に謝長廷氏から宝石を受け取った」という偽情報が流布された。これは、元駐日台湾代表の謝長廷氏が、台湾へ政治的利益を図ることへの見返りに高市氏へ宝石を贈ったと主張するものだ。この偽情報は、証拠となる偽造文書まで提示し、日台関係を「賄賂外交」と表現するなど誹謗中傷を行った。
この偽情報を悪意もって流布した勢力は、台湾と日本の外交関係を弱体化させ、高市氏の「存立危機事態」戦略の信用を傷つけるために「ハッキングと情報漏洩」(hack and leak)の手法を用いた。この手法は、台湾が外交上の突破口を開く重要な局面で度々遭遇してきたサイバー攻撃の手法と類似している。


