2026年3月4日(水)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2026年3月4日

患者はなぜ復職できないのか

 本邦の場合、制度上の不備が職場復帰への負のインセンティブを与えている。本来、傷病手当金は、職場復帰を前提とした短期間の所得補償である。しかし、支給側にも、受給側にも、制度内に「回復に向けて努力を促す」仕組みが組み込まれていない。その結果、患者に復帰を逡巡させてしまい、それと気づいた時にはすでに長すぎる休職となっている。

 職場でストレスがあったことを否定すべきではない。しかし、すでに数ヵ月ないし1年以上も経過している。それでも復帰できていないのは、傷病手当金の制度が、医師の側にも、社員の側にも、復職へのモチベーションを下げるような仕組みになっているからである。

 傷病手当金受給者の増加は、狭義の精神医学的問題ではない。むしろ、制度設計の問題である。

 労働環境は悪化していない。むしろ改善している。「精神障害の増加」の内実は「精神障害を理由に休職し、傷病手当金を受給する人が増加し、かつその期間が長期化している」にすぎない。

 原因は、職場環境の悪化ではない。精神科医の陰謀でもない。まして、個人の怠慢でもない。本質は、制度と疾患特性の不一致であり、社員も、会社も、それによって翻弄されている。

 健康保険は、一般に被保険者保険料、事業主負担、公費(協会けんぽ)で成り立っている。それは相互扶助制度であり、「自分が使うことになるかもしれない」という前提で、加入者全員でリスクを共有している。だからこそ、健康保険に由来する傷病手当金についても、その使われ方は、加入者全員が関心をもっていい。諸外国のモデルを参考に、制度自体を抜本的に改善する必要があるように思われる。

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