『魯山人のかまど』(NHK総合・ドラマ10)は、芸術家として陶芸や篆刻(てんこく)、絵画、書道、料理など幅広い分野で才能を発揮した、北大路魯山人(きたおうじ・ろさんじん)の老境を描いた傑作である。
主人公役には、藤竜也が起用された。魯山人は満76歳没。日活のアクション俳優から出発した藤竜也も名俳優となった。今年85歳になる。
老境の魯山人役としてはベストな配役である。当初は、小林薫が予定されていたというが、当たり役の『深夜食堂』のイメージが強かったのも、藤竜也に白羽の矢が立った理由のひとつではないかと推察する。
ドラマは第1回『初夏編』から『晩夏編』『秋編』とつないで、『冬編』(4月21日放送)で幕を降ろす。見逃し配信などでご覧になっていただきたい、今季ドラマの秀作というよりも永く残る作品である。
この『TV読本』シリーズにおいては少し異例ではあるが、魯山人が残した膨大なエッセイを紹介しながら、ドラマと俳優たちについてふれていきたい。
吉田茂も魅了するアユ料理
ドラマは毎回著名な人物を魯山人が料理でもてなすのが、アクセントになっている。『初夏編』では、大磯に暮らしている時の首相である吉田茂(柄本明)を訪れる。料理はアユの塩焼きである。『晩夏編』では大物政治家らのグループをスポンサーにするために招く。
古川琴音が演じるのは、雑誌記者の田ノ上ヨネ子である。魯山人の人生録を聞き書きする目的で魯山人を訪れる。魯山人にあいさつもしないままに、出された茶の茶碗を「美しい」と、見入った。人嫌いで知られた魯山人であったが、そんなヨネ子をいたく気に入った。
「仕事の手伝いをしてくれな」と、魯山人にいわれたのは京丹波のアユを仕入れてくることだった。地元の漁師とともに奥深い川にたどりつくと、川の藻を食べてみるようにいわれる。喉越しのよい味がした。この土地のアユに魯山人がこだわった訳である。
