2026年5月2日(土)

21世紀の安全保障論

2026年5月2日

 自民党の党大会で自衛官が国歌を斉唱した事案は、政治的行為を制限する自衛隊法に違反するとして市民団体が刑事告発状を提出する事態に発展している。他方、この自衛隊法の規定の底流には、日本における政治と軍事の関係(政軍関係)があると考えられる。

(blinow61/gettyimages・渡辺広史/アフロ)

 本稿では、これまでの研究や筆者の経験を踏まえて、日本における政軍関係を概観し、本事案の持つ意味を考えてみたい。

政軍関係:クラウゼヴィッツ的視点から

 1832年に初版が出版された『戦争論』の執筆者のカール・フォン・クラウゼヴィッツは戦争について、「他の手段をもってする政治の継続」と定義している。この定義は言い換えれば、軍あるいは軍事は「政治」の一手段であるということだ。ここで重要なのは、クラウゼヴィッツの言う「政治」とは、国家全体の利益を追求する「国政」を指しているという点である。

戦争論
カール・フォン・クラウゼヴィッツ

 民主主義国家の場合、「国政」とは民主的なプロセスによって成立した政権が執り行う政治と言えよう。自衛隊という実力組織が「国政」の文脈の中で活動することは、民主主義国家では当然のこととなる。しかし、その「国政」を担う政権政党たる自民党の党大会で自衛官が国歌を斉唱したことで、様々な見解が乱れ飛んだ。

 中国の人民解放軍は国家の軍隊ではなく共産党の軍隊であり、党と軍は一体の関係にある。一方、日本では自衛隊は国家の実力組織であり、政権政党のそれではない。

 では、政権政党と自衛隊が完全に無関係かと言えば、そうではない。政権政党が自衛隊の予算や運用などに関して一定の影響力を持っていることは明らかだ。このため多くの自衛官は、自衛隊を円滑に運営するため、政権政党あるいは政権政党の議員と微妙な距離感を取りつつ仕事をすることになる。

 今回の国歌斉唱事案を捉えて、政権政党と自衛隊の癒着などと断じることは簡単だ。しかし実際には、「政治」のコントロール下にある自衛隊の側が政権政党と一線を画すことは簡単ではない。ここは、政権政党あるいは政権政党の議員の側が、政治的理性を発揮することに期待せざるを得ない。


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