2026年5月13日(水)

山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2026年5月13日

イメージ図(fumimicreative/GETTYIMAGES)

 先日、『南鳥島レアアースは「掘るべき資源」ではない――日米同盟が生む中国に対する静かな抑止力、山師から多くのメディアに伝えたい資源戦略の「本質」』を書いたことで、大きな反響を頂いた。

 ここで改めて、「南鳥島レアアース」について、指摘しておきたいことがある。

『結論から言えば、南鳥島は「掘るべき資源」ではない。むしろ、「掘れる能力を保持すること」そのものに価値がある戦略資産である。この視点に立たない限り、南鳥島を巡る議論は現実を見誤る』

 つまり、商社マンの常識から言えば、この開発には決定的な「利益」が見えない。資源ビジネスの本質は、地中に「ある」ことではなく、「いくらで掘り、誰に売り、いくら手元に残るか」という冷徹な算盤勘定である。水深6000メートルの深海から泥を吸い上げるコスト、荒れ狂う太平洋での操業リスク、さらには精錬過程での環境負荷とコストを考えれば、現在のマーケット価格で採算を合わせるのは至難の業だ。

「埋蔵された宝」という言葉が独り歩きして、あたかもバラ色の未来が約束されているかのように語られている。繰り返しになるが、まずはこの開発合意の本質が何であるかを熟考すべきである。そうでなければ、真面目なタックスペイヤーである日本国民を欺く「打ち上げ花火」になってしまう可能性がある。

現場不在の「資源大国論」を阻む5つの壁

 多くの有識者が「南鳥島の泥には重希土類が豊富に含まれ、世界が驚愕している」と語る。学術的には100点満点であろうが、現場を知らぬ楽観論が政策を誤らせる危険は、これまで何度も繰り返されてきた。ここで、今の南鳥島論に潜む重大な誤解を整理しておきたい。

①採算の壁:資源は「量」ではなく「利益」で決まる

 地中にどれだけ眠っていようと、採掘コストが販売価格を上回れば、それは資源ではなくただの「泥」である。深海採掘は陸上鉱山とは比較にならないコストがかかることを忘れてはならない。

②技術の壁:「産業化」へのハードルはエベレストより高い

 学術的に魅力的な鉱床であることと、それを安定的に供給する産業システムを構築することは別問題である。設備の耐久性、エネルギー効率、環境規制のすべてが産業化の壁となる。

③国益の壁:「埋蔵量1600万トン」巨大な数字は「国民への宣伝」に過ぎない

 開発原資は国民の血税であり、1トン当たりの実コストを議論しない政策は無責任極まりない。

④主導権の壁:日米協力という名の「不均衡な契約」

 日本が関与しない仕組みで投資先や供給先が決定されるならば、それは主導権なき資源外交である。協力の名の下に、日本の資産が他国の利益に回収されるリスクを熟考すべきだ。

⑤戦略の壁:掘った量では中国には勝てない

 中国が強いのは採掘量だけでなく、供給網全体を支配する「握る力」があるからだ。日本が取るべきは、むやみな採掘ではなく、技術を磨き供給能力を誇示する「抜かずの宝刀」戦略である。

「贅沢な実験」に血税を投じる愚かさ

 産業界のリアリズムは、学術的な驚愕とは無縁の場所にある。どんなに希少で高級なレアアースが眠っていようとも、それを採り出すための船代や精錬所の維持費が市況を大幅に上回っていれば、それはビジネスではなく「国家的な贅沢な実験」である。

 今の日本が進めるべきは、補助金をバラまいて無理やり掘り出すことではない。「掘ればいつでも利益が出せる」レベルまで、徹底的にコストを下げる揚泥・精錬技術を磨くこと。それこそが真の「刀を研ぐ」ということであり、それ以上の深追いは、商社マンの感覚では「経営判断ミス」による自殺行為に等しい。


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