ファニー・フェイス――オードリー・ヘップバーンが「ローマの休日」でデビューしたとき、それまでのエリザベス・テイラーらの美人女優とはちょっと違った魅力の個性的な表情を持ち、ときに使われた。
日本の映像業はいま、“ファニー・フェイス”の時代である。個性的な女優陣がドラマや映画で活躍している。彼女たちの魅力は演技の巧みさだけではない。
卓抜した演技を見せる見上愛
米国のテレビドラマの最高賞にあたるエミー賞において、真田広之がプロデュース・主演した「SHOGUN 将軍」が撮影賞や編集賞など14部門を受賞したように、世界的なネット配信の拡大のなかでコンテンツの多様性が広がっている。
岩井俊二監督は、黒木華がデビューした当時、「美人女優像から離れているのではないか」と問われて、「欧米人から見ると彼女はアジア的な美を感じる」と答えた。先見の明である。
大河ドラマ「光る君へ」で、一条天皇(塩野瑛久)の中宮・彰子にして藤原道長の娘を演じている、見上愛も不思議な魅力を持っている。一条帝は、亡き皇后の定子(高畑充希)のことが忘れられずにいる。
彰子(見上)は心に秘めた強い意志を持ちながらも、どのように帝に伝えたいかがわからない。帝との受け答えは短い。宮中ではうつけではないか、との噂も立っている。
脇道にそれるが、今回の大河ドラマによって平安の宮中人と文学を残した女御たちの関係を改めて学ぶことができるのはひとつの魅力である。一条帝の皇后・定子の女御であった清少納言による「枕草子」は、定子時代をしのぶ書であり一条帝が繰り返し読んでは定子をしのんでいる。中宮・彰子の父である道長は、物語の力によって一条帝に彰子の部屋に通ってもらおうと、紫式部(ドラマでは吉高由里子)を中宮付きの女御として「源氏物語」を書かせる。
ドラマの第34回「目覚め」では、紫式部が中宮・彰子に男性の心根を教えて、一条帝と結ばせる手ほどきともいえる。彰子の表情に女性らしい豊かな表情が浮かんでくる。