大河ドラマ「光る君へ」は、NetflixやAmazon Primeなどの映像配信サービスが席巻している時代に船出した新しい時代の長編連続ドラマである。大河ドラマ史上最低の世帯視聴率ばかりに注目してはいけない。王朝の絵巻物を想起させる物語は、テレビというメディアからネット配信への画期のなかでコンテンツの可能性を示す傑作である。
世界初の女性による小説『源氏物語』を書いた紫式部を演じる吉高由里子にとっても俳優人生の画期となる作品となるだろう。
「光る君へ」の本当の視聴者数
脚本の大石静は、Netflix配信ドラマ「離婚しようよ」(2023年・宮藤官九郎と共同脚本)をてがけた。テレビのベテラン脚本家のなかで映像配信ドラマの肝をいち早く学んだといえるのではないか。
Netflixの23年第4四半期の会員増加数は1310万人にのぼって過去最高だった。総会員数は2臆6000万人以上である。
日本の視聴率調査会社のビデオリサーチは、25年春から従来の世帯視聴率ばかりではなく、録画して番組を観るタイムシフト視聴率、さらにNetflixと民放の無料配信サイトであるTVerの視聴率も公表する。
「光る君へ」の視聴状況はどうか。初回の総合テレビの視聴率は平均世帯視聴率12.7%、大河ドラマの初回としては最低だった。総合とBSプレミアムの世帯視聴者とタイムシフト視聴者の合計は、2243万6000人(総合とBSの重複は省く)にのぼる。
さらにNHKの配信サイト「NHK+」におけるこのドラマの視聴者は全ドラマのなかで最高となる49万8000ユニークユーザー(実際に観た人数)となった。
大河ドラマをNetflixなどの映像配信サービスのドラマシリーズのseason1を5から10話と考えると、実にseason10ほどにも相当する長編である。ひとつのドラマを毎週観るという習慣が薄れてきたいま、週末にseasonの一つを観るのは珍しい視聴行動ではない。
Netflixの長編ドラマにはまった経験からすると、主人公は最終話まで変わらないにせよ、seasonごとにテーマ性の大転換があり、かつ主人公にからむ登場人物の入れ替わりがある。ドラマに起伏を持たせるとともに、主人公の周辺のメンバーを飽きさせない。