2024年12月23日(月)

田部康喜のTV読本

2023年9月25日

 民放の無料配信サイト「TVer」が初めて制作を手がけた「潜入捜査官 松下洸平」(全5回公開中)はサスペンス・コメディともいえる楽しめる作品である。舞台は芸能界。主要なキャストが役者名で登場する。映像配信サービスのNetflix(ネトフリ)やAmazon PrimeVideo(アマプラ)が世界を席巻するなかで、日本のテレビ業界は自らの将来像を探っている。「潜入捜査官」の先に見える未来のテレビとはどのような存在になっているのだろう。

(Elen11/leolintang/zoff-photo/gettyimages)

舞台は民放キー局

 警察官役の松下洸平は警視庁副総監と公安部参事官の命によって、ベテラン俳優の佐藤浩市がメキシコマフィアの幹部である情報をもとに、芸能界に潜入する。松下が選ばれた理由は「芸能界にギリギリ入れるが、売れない」、売れない俳優をかわいがる佐藤浩市に気に入られる可能性だった。

 ところが、松下は上司の思惑とは異なって売れっ子俳優になってしまうのだった。潜入捜査に入ってから15年、ついに佐藤浩市が出演する映画の主演にまで射止めた。中小企業の経営者役の佐藤が経営に行き詰まる。この企業の担当銀行員が松下と馬場ふみかという設定である。

 ドラマの制作はキー局が共同である。松下がそれぞれの局の人気バラエティ番組に出演するシーンが挿入されている。「ぐるぐるナインティナイン」「あざとくて何が悪いの?」「ラヴィット」「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」「全力!脱力タイムズ」である。

 潜入捜査官の松下は佐藤浩市に食い込む必要がある。ところがそのチャンスがなかなか訪れない。撮影中の映画の飲み会があるが、「脱力タイムズ」の出演とダブってしまう。会場にかけつけたときには「もうちょっと飲みたいので残ってました」という馬場ふみかだけだった。

 彼女が松下を動揺させる言葉を投げかける。「私、松下さんのもうひとつの顔に」と。「いま撮っている映画に私の女優人生がかかっているんです。ダメにしたくないんです。いってもいいんですか?私の胸のなかにしまっておくこともできるんですよ」。

 松下は「(潜入捜査官の身分が)バレた」と思った。逃げるようにして会場を去った。


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