2024年5月4日(土)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2023年9月21日

 ジャニー喜多川氏(故人)による少年たちへの性暴力事件は、その規模と深刻さ、そして組織的な幇助と隠蔽の悪質さという点で、極めて大きな事件だ。何よりも、未成年への加害を含み、それも地位の優越を利用した計画的加害ということで、犯罪の悪質さは言葉にならないくらいだ。

(AP/アフロ)

 けれども、社会としてこの事件の評価は十分ではない。解決へ向けて3点、問題提起をしておきたい。

被害者救済と関係者を含めた断罪必須

 1点目は、解決の道筋である。重要なのは事務所の名称だとか、所属タレントの移籍などという小手先の対策ではない。被害者の救済と、幇助隠蔽を行った者の断罪を行うこと、この両輪がしっかり進んでいくこと、これが本質である。

 まず救済に関しては、まず金銭的な補償が必要であり、また、責任者からの謝罪も必須である。この補償と謝罪については、既に事務所は責任を果たすと言明しているが、その履行がされるかは継続的に検証が必要だ。

 これに加えて、被害者には改めて真相解明を通じて真実を知る権利がある。また、個々の被害者はPTSD(心的外傷後ストレス障害)については高度な治療がされるべきだ。今でも喜多川氏を崇拝して肖像画を画いている著名タレントがいるそうだが、こうしたケースも非難ではなく治療の対象であろう。ただ、それぞれの本人が望まない場合は、個々の被害事実についてはプライバシーの観点から隠匿される権利を保証すべきだ。

 一方で、幇助と隠蔽に加担した人物の責任追及に関しては、妥協は許されない。見て見ぬふりをしていたとか、喜多川氏が怖くて言い出せなかったというような場合はまだいい。だが、「明らかに虚偽の発言をして隠蔽に加担した」「日程調整などを通じて喜多川氏の加害に加担していた」となると話は別だ。まず、刑事責任、民事責任については、逃れられないと考えるべきだ。

 最も悪質なのは、被害者が明らかに「拒絶の意思表示」をしていたことを知っていたか、あるいは仮に合意していても被害者が未成年であることを知りつつ、喜多川氏の加害を幇助したケースである。こうした場合は、仮に時効などで刑事責任が問えない場合でも、社会性の強い芸能界としては永久追放は免れない。

 被害者の中には、同時に幇助や隠蔽に加担した人物もあるだろう。その場合も責任を曖昧にするのではなく、補償や治療を受けると同時に、自己の責任は果たしてもらうのが筋である。加害と被害を相殺して、曖昧な免罪をすべきではない。


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